偉人・達人が残したもの

キャリア・デザイン、キャリア・カウンセリングという言葉にふれる機会が多くなりました。夢をもてなくなり、将来的な職業観や仕事に対するイメージが描けない子どもたちが増えているからでしょうか。人生の3分の1の時間を費やす仕事に向き合うことで、偉人・達人といわれる人々は、何を学び、どんなことを教訓として得たのか。子どもたちに職業のプロ、人生のプロがつかんだ生きることのすばらしさをメッセージとして贈るときに参考になります。 

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対象 学校だより・学級通信・進路通信

ずっとこの場所で生きてゆく
きっとこの場所で生きてゆく
一緒に過ごした瞬間(とき)は生きる私の宝もの
(「読売新聞」2017.5.3)

あさみちゆき さん(歌手・井の頭公園の歌姫)

 これは、あさみさんが作詞した「こころのうた」の一節で、いまは亡きある恩人に捧げた感謝の歌である。

 高校を卒業と同時に、歌手を目指して上京。それまでに地方の歌謡選手権で優勝した経験があるにしても、当てがあるわけでもない。無謀といえる決心である。アルバイト生活をしながら、何度もオーディションを受けるが落選の連続。心はくじけそうになる。

 そんなある日、新宿の路上で楽しそうに歌う男性ミュージシャンを見かけ、勇気をもらった。「よし、私もライブをやろう」。早速、井の頭公園で歌い始めた。続けるうちに、決まって聴いてくれる人が出てきた。その一人が、みんなに「会長」と呼ばれる塗装会社の社長の伊藤正一さんだった。彼はあさみさんを励まし続けた。

 そんな様子が週刊誌に報じられて、念願のデビューを果たした。上京して7年経っていた。伊藤さんは「たいしたもんだ。偉いな」と心から喜んだ。しかし、その翌年、がんで82歳の生涯を閉じた。葬式では彼女とのツーショット写真が飾られた。標記の歌は、それからしばらくして作られた。

 「歌手あさみちゆき」が誕生した公園で、ずっと歌い続ける決意、恩人伊藤さんへの誓いの歌である。今でも彼女は公園の歌姫として、ビールケースの舞台に月一回立ち続けている。


(『月刊プリンシパル』2017年7月号/ 学事出版より)


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