(15) いじめを乗り越えた学級力向上プロジェクト Part2
(2018年3月公開)
(大阪府豊中市立原田小学校 教頭 蛯谷 みさ さん)
注)報告者の所属学校名は、レポート作成当時のもので、現在と違っている場合があります。
前回の(14)に引き続き、いじめの解決に向けて努力した教師と子どもたちの取り組みを紹介します。「学用品が繰り返し奪われる」といういじめはどのようにしてなくなり、子どもたちは成長したのでしょうか。道徳、総合的な学習の時間、学校行事、特別活動における具体例を見ていきます。なお、●は手だて、■は育成する力、■は育つ力。[ ]は対応する学級力の項目です。
【道徳】「本当の友だち」「大きい人、小さい人」
● どんな友達を本当の友だちと言えるのか、大きい人、小さい人とはどんな人なのか、自分たちの体験を交えた話し合いを行い、フィンランド・メソッドのカルタの手法を使って、子どもたちの思いや考えを整理しました。
■ 友達や人間関係について考える力
■ 人間関係の視点を広げる
[支え合い・仲直り・感謝]
【総合的な学習の時間】壁新聞づくり
● いじめをなくし、より良いクラスをつくるためのテーマを子どもたちが6つ提案し、それぞれ班に分かれて壁新聞を作成しました。
■ トラブル解決策や取り組みの成果を発信する力
■ 共同で作成し、他のクラスや学年に伝えていくことで、いじめを克服し、成長しようとするクラスの子どもたち全員の自覚と連帯感が高まる。
[役割・支え合い・仲間]
【学校行事】「いじめをなくそうアピール作戦!」
●「いじめ防止」を全校に呼びかけました。低学年向けに絵本や紙芝居を作って児童会行事で読み聞かせをしたり、マンガやポスターを作って校内に展示したりしました。
■ 自分たちの決意と実行に責任を持つ力、相手意識を持ってトラブル解決策を伝える力
■ 悲しい気持ちになる人を二度と出さない決意と責任を自覚する。
[改善・役割・支え合い]
【特別活動】「はがき新聞づくり――いじめていた君へ」
● クラス一丸となっての取り組みにより、2学期の時点でいじめ問題は解決しましたが、それを風化させないために3学期の終わりにはがき新聞に書いて掲示しました。
■ 今後のいじめに対する対応力
■ 今後、いじめ問題に遭遇したらどう対応するのか、いじめられた人にはどう寄り添えばよいか、いじめる側の人にはどう語りかければよいか――こうした問題を考えさせ、その考えを交換し合うことで、お互いが守り、守られているという安心感を学級内に生み出す。
[目標・支え合い・尊重]
子どもたちの心の成長と学級力の向上
こうした多様な取り組みにより、子どもたちには「自分たちのクラスは全員の力を結集していじめを乗り越えたんだ」という自信と絆が生まれました。
いじめられた子がくじけずに、休むことなく登校できたのは本人の頑張りと、クラス全員によるいじめ対策の活動、その子への励ましがあったから。そして、全員の心の成長があったからです。
いじめられた子は「いじめていた君へ」と題したはがき新聞にこう書きました。
「恨んでいないから安心してください。でも、違う人には被害を与えないでください。あなたが困っていたら、自分もみんなもいつでも助けに行くからね。心配しないでください」
年度末に作成したはがき新聞にはこんなことを書いた子どももいました。
「最高のクラスだった。どんな時も協力したから、どの行事も5年間で一番良かった。それに勉強の成績もすごく上がった。みんなありがとう。いじめに負けなかった。このようなクラスがたくさんできたらいいなと思った」
他にも「一生の思い出に残る、とても楽しい1年間だった」といった達成感や満足感を書いた子どもたちがたくさんいました。3学期に実施した学級力アンケートの結果も、それまでで一番でした。
これからも子どもたちの「不安」を「安心」に変える力を育て、子どもたちが明日も学校に行くのが楽しみだと感じるような学級をつくりたいと思います。それはとりもなおさず教師にとっても、子どもたちにとっても学ぶことが楽しい学級をつくることなのです。
(14)(15)引用・参考文献
① 田中博之編著『学級力向上プロジェクト』金子書房、2013年 : pp.31-38 蛯谷みさ「4年生の実践-クラスの課題を協力して解決する力を育てる取り組み」
② 田中博之著『フィンランド・メソッドの学力革命』明治図書出版、2008年
③ 田中博之編著『学級力向上プロジェクト』金子書房、2013年 : pp.202-207 蛯谷みさ「小学4年生のはがき新聞」
④ 理想教育財団『季刊理想2013年春号』、2013年 : pp.5-6 蛯谷みさ「学級力を育てた3種の新聞づくりの試み」
⑤ 『児童心理』4月号 金子書房、2014年 : pp.69-73 蛯谷みさ「安心感のある学級づくり いじめを乗り越える力を育てた学級力向上プロジェクト」
今号が最終回です。
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