本コーナーでは、スポーツ選手・指導者、芸能人・俳優・タレント、文学者・芸術家、学者・政治家などのやわらか人生訓を紹介します。苦境に陥ったとき、苦しい試練を乗り越えたとき、目標を達成したとき、新しいことに向き合ったとき、人はどんなことを考えているのか。ひとつのことを究めようとしている人ならではの言葉がこぼれてきます。通信の導入部分や話題の転換部分、結論部分の味のあるひとこととして引用できます。
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学校だより・学級通信 |
今井通子さんといえばヨーロッパ・アルプスの三大北壁「アイガー、マッターホルン、グランドジョラス」を征服したことでも知られていますが、これは女性として世界初の偉業でもあったのです。(中略)
今井さんは登山を通して「自然」というものを自分の身体で体感してきています。それらの経験の中から導き出された環境保護への考え方は少々異色です。自然の中に入ったなら本能に合ったやり方をするべきだと今井さんは指摘します。
「“自然を守る”ということを教えるには“山の木を切るのはやめましょう”が最初にありきではなく、まず“木を切ってみよう”から始めるべきだと私は考えています。ここで誤解してもらっては困るのですが、私の言わんとすることはチェンソーなどを使ってバンバン切ってもいいということではありません。ノコギリなどを使って子どもの手で切れる範囲のことを言っているのです」と。
さらに「子どもたちは汗を流して木を切り倒すわけですから、達成感を味わえるはずです。と同時に、この一本の木がここまで生長するには何十年という年月が必要なんだということも年輪などから知ることができるはずです。このことを理解してから植林の大切さを教え実際にやってみると、ただ単に形式的な知識としての自然保護ではなく、体感的な経験としての環境保護ができると私は思います」。
今井さんは「失敗」についても話してくれました。1959(昭和34)年と60年に冬季チョモランマ登山隊長としてヒマラヤに遠征したのですが二度とも失敗してしまいます。(中略)二度目では一度目の失敗をあらゆる角度から分析したそうです。しかし、またもや失敗・・・。
「その時に考えました。私たちのやれることはいまの時点ではすべてやった。これ以上何をやればいいのかわかりませんでした。その結果、これは自分たちがどうのというよりも相手が強すぎたんだということでサッパリ、スッキリとあきらめることができました。よく“三度目の正直”なんてことを言いますが、これは人間社会でのことであって、自然界では通用しません」と。
今井さんは失敗の原因をきちんと反省し再チャレンジし、それでもダメなら別の道を考えなさいと言っているのでしょう。必ず道はどこかにあるものです。
(『人生の達人45人の話』奥野真人著/学事出版より)