曖昧な文章は「分かりにくい」。
曖昧さをなくすためには、読点の工夫や係り受けの明確さ、
センテンスを分割するなどの方法がある。
代名詞や否定文も不正確さを助長するので注意したい。
センテンスが「二つ以上の意味に解釈できる」場合、私たちは、「曖昧で分かりにくい」と感じます。
書き手自身は、伝えたい意図を知っていますから、たいてい、自分の書いた文章の曖昧性は見えません。一種の盲点です。自分の書いた文章に関して、他人から意外な質問をされて初めて、「そんな意味にも取れるのか!」と曖昧性に気づくのです。
私自身も、この書き手には見えない曖昧性という落とし穴に、よく落ちます。曖昧性を生み出さないように、気をつけるべきポイントを紹介しましょう。
前回、読点の打ち方の原則3として、すでに紹介しましたが、曖昧性を消す有力な手段なので、再度、例文だけ紹介しておきましょう。
【違反例】私はすばやく彼が隠れるのに気づいた。
→ 「すばやく」何かをしたのは、どっち? 私? 彼?
【改善例1】私はすばやく、彼が隠れるのに気づいた。
→ すばやく何かをしたのは「私」です。
【改善例2】私は、すばやく彼が隠れるのに気づいた。
→ すばやく何かをしたのは「彼」です。
さきほど見た例文の一つでは、「すばやく」がどこに係るかが曖昧なため、読点で解決した例でした。修飾語と被修飾語が離れてしまっている場合は、その位置を近づけると分かりやすくなる場合もあります。
【違反例】私は二年近くも英国に留学した後で彼が結婚していたことを知った。
→留学していたのはどっち? 彼? 私?
【改善例1】彼が二年近くも英国に留学した後で結婚していたことを私は知った。
→彼が留学
【違反例】彼が結婚していたことを私は二年近くも英国に留学した後で知った。
→私が留学
修飾語と被修飾語が離れ離れになっている場合、読み手は両者の関係を発見することが難しくなります。たとえ、曖昧性がないようなセンテンスでも、一つのセンテンスに二つ以上の節が含まれていると、たいてい、主語が二つ、動詞が二つあるので、その対応関係(係り受け)の整理作業が発生します。
長いセンテンスでなくても、曖昧性はつきまといます。
「オリンピック選手の兄」という表現では、次の二つの解釈が可能です。
【A】兄がオリンピック選手
【B】弟(または妹)がオリンピック選手
【違反例】オリンピック選手の兄は、銀行員だった。
【改善例1】そのオリンピック選手には銀行員の兄がいた。
【改善例2】彼(彼女)にはオリンピック選手の兄がいて、銀行員をしていた。
一つのセンテンスに二つ以上の節を含んでいる場合、センテンスを二つに分割し、それぞれの節をセンテンスに格上げしてしまう方法があります。センテンスを分割する手法は、すでに「センテンスを短くせよ」(第3回)で見てきましたので参照してください。
代名詞がどの語を指しているかを知っているのは書き手ばかり、という事態はよく起こります。
【違反例】高橋さんは息子さんを連れてきてくれました。彼のゴルフ理論を1時間も丁寧に教えてくれました。
→ 「彼」とは、どっち? お父さん? 息子さん? 「教えてくれた」のはどっち?
お父さん? 息子さん?
【改善例1】高橋さんは息子さんを連れてきてくれました。息子さんが自分のゴルフ理論を1時間も丁寧に教えてくれました。
同じことを書いているつもりでも、否定形にすると別の意味にも解釈されることがあるので注意が必要です。
「全員が反対です(注:完全否定)」を意味したくて、
「全員が賛成していません」と書くと、
「全員が賛成しているわけではありません(注:部分否定)」という意味に解釈する読み手もいます。
【違反例】鈴木さんは、小池さんのようにうまく運転できない。
この違反例では、二人とも運転が下手なのか、それとも小池さんだけは運転がうまいのか不明です。
【改善例1】小池さんはうまく運転できないけれど、鈴木さんも同じです。
【改善例2】鈴木さんは、小池さんほどうまく運転できない。
◎次回は 相手を説得する文章術 について。