▼第13回
手書きか?パソコン制作か?Web通信か?
「ガリ版先生」とう言葉が象徴するように、かつて学校から出る通信と言えば、「ロウ原紙」を「ヤスリ」の上に載せて「鉄筆」でガリガリと一字一字刻んで製版し、「謄写版」と呼ばれる孔版印刷器で一枚一枚手刷りしていたものです。それが数々の変遷を経て、今日の姿にたどり着きました。「育て!プリントコミュニケーション」コンクールへの応募作品から見ても、学校通信はほぼ100%パソコンによる制作です。学級通信の場合でも、手書きの割合は2割ぐらいでしょうか。最近では「いや、私はもっぱらブログ通信です」という「Web派」も増えてきています。今回は、この3方式のメリット・デメリットを考えてみましょう。
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今でもあえて「手書き」にこだわっている先生方がかなりいるということは、手書きには手書きにしか出せない「味」があるからでしょう。
手書きの学級通信からは、それを制作する先生一人ひとりの「温もり」や「親しみやすさ」が直に伝わってきます。
紙とペンさえあれば「いつでも、どこでも」書けるという手軽さもあります。
小さな文字、デザイン文字等を含め、レイアウトは全く自由自在です。「切り貼り」方式で、子どもたちの作品も容易に載せられます。
「ガリ版」と同様一字一字書き込んでいくという行為そのものが発信者側の意識にもたらす「何か」も貴重です。
書き手である教師個人のパーソナリティーが、よい意味でも悪い意味でも強烈に表れると言えるでしょう。
つまり、個性的すぎる書体や、読みにくさ、ゴチャゴチャ感・・など、よほど自戒し自制してかからないと「独りよがり」な通信になりかねません。
先生の「作品」は子どもたちにとって最大の「モデル」であることを、常に念頭に置いて発行したいものです。
見出しの大小や粧いで、記事の重要度の軽重を知らせる。大事な記事は、本文の長さに関わらず大きく目立つように書きます。
● 一方、パソコンを使って制作した通信は、 ①基本のフォーマットさえ初めにつくっておけば毎号の(形式的な)制作は容易である ②きれいに印刷され読みやすい ③画像の挿入が容易でありビジュアルな紙面がつくれる ④少部数の場合や特別号などカラー版での発行も可能である ⑤レイアウトの変更や加除訂正が簡単に出来る、などの優れた点を持っています。 一方、ややもすると無味乾燥な紙面、紋切り型、そっけない冷たい感じになりかねないのも事実です。 パソコン制作を基本としながらも、手づくりの良さをどう加味していくかが課題と言えます。例えば、 見出しの一部は手書きで大胆に書いてみる、子どもの作品などをスキャナで取り込み拡大縮小して載せるなど、 工夫してみるとよいでしょう。パソコン制作の場合、ワードや一太郎などでも十分可能ですが、 編集専用ソフトを活用すると、制作の幅がずっと広がります。
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最近、学校通信だけでなく、学年・学級通信もインターネット上の
ホームページとして公開しているケースが見られるようになってきました。
この傾向は今後ますます強まっていくでしょう。メリットも多い反面、現時点では問題点もたくさんあります。
メリットとしては、①印刷や配布の手間がかからない ②時間的な制約がない(休みの日でも夜間でも発信できる)
③紙やインクを使わないので費用がかからない ④いつでもフルカラーで表現できる ⑤情報量に制限がない(いくら長い文章でも載せられる)
などが挙げられるでしょう。
一方、問題点としては
① まだインターネットの接続環境にない家庭もあります。また、各末端PCやプロバイダーや発信者段階でのトラブルによって接続できなくなる場合もあり得ます。
② 通信活動の根本的な機能の一つである「肉声のコミュニケーション」を促すという面で、難点があります。教室で先生が子どもたちに直接手渡しする、つまり同一場所・同一時間に同一紙面を見るという共有体験が持てること、受け手の反応を声や表情で具体的に把握できること、親子が1枚の通信を介してふれあうという可能性など、通信の内容だけでない「効用」が発揮されにくくなるのではないでしょうか。
③ 不特定多数の人が閲覧可能であるということから、通信活動が本来抱えている問題点である「肖像権」「著作権」「プライバシー」などの問題が、より鋭い形で出てきます。特定少数を配布対象とする紙媒体では、間違った場合「回収」という手段をとることも可能ですが、ネット上ではいったんトラブルが発生すると即「大問題」に発展し、取り返しのつかない事態にさえなりかねません。
④ 特に重要なのは、セキュリティー面での危険性です。パスワードによって特定の会員しかページに入れないように設定したとしても、安心はできません。第一に、プロやマニアのハッカーによって侵入され、情報が盗まれたり書き換えられたりする危険があります。第二に、「会員」やその身内の中に万一悪意を持ったり注意力を欠いた人物がいた場合、同様の被害が発生する可能性が出てきます。
Web上で通信を発信する場合は、このような問題点があることを充分理解した上で実践すべきだと思います。紙媒体での通信を主体とし、インターネットは補助的機能として活用するという行き方もあります。例えば、ある授業の様子を伝える場合、紙の通信では紙面が限られているので、全体の雰囲気や特徴的なエピソードを「記事」として書く。一方Web通信では、その授業の指導計画、授業後の反省・評価、子どもの発言や作品を(本人の了解を得て無記名で)掲載することも可能です。つまり、紙の通信の不足を補ったり、より発展させたり、より詳しい内容を知るための情報提供の場にすることです。紙の通信は全員に必ず読んでもらいたい内容、Web通信は「読みたい人が読む」内容と使い分ける方式です。
手書き・パソコン・Web、それぞれの良さが発揮され、補完しあえる通信活動が展開できるとよいのではないかと、私は思います。