第9回理想教育財団教育フォーラム
2018年8月19日(日):大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)
開催プログラム
開催テーマ | |
---|---|
考え、議論する道徳科を創る | |
特別講演 | |
学習指導要領改訂の要点 | |
講師 | 文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官(道徳) 浅見 哲也 氏 |
基調提案 | |
学級づくりの視点を重視した道徳教育 | |
提案者 | 桃山学院教育大学 教育学部 准教授 今宮 信吾 氏 |
実践事例1 | 尼崎市立立花小学校 教諭 宇都 亨 氏 |
実践事例2 | 西宮市立北夙川小学校 教諭 平林 千恵 氏 |
シンポジウム | |
道徳科における授業づくりと評価のあり方 | |
コーディネーター |
早稲田大学教職大学院 教授 田中 博之 氏 |
シンポジスト |
文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 浅見 哲也 氏 山口市立上郷小学校 校長 坂本 哲彦 氏 豊中市立上野小学校 校長 蛯谷 みさ 氏 尾張旭市立旭中学校 教諭 彦田 泰輔 氏 飯塚市立穂波西中学校 教諭 山田 誠一 氏 |
「考え、議論する道徳科を創る」をテーマに第9回理想教育財団教育フォーラムを開催
第9回目となる今回の教育フォーラムでは、小学校では2018年度から、中学校では2019年度から、「特別の教科 道徳(以下、道徳科)」として位置付けられることになった道徳教育について、「考え、議論する道徳科を創る」をテーマに様々な発表がありました。
開会に先立ち、当財団の羽山明理事長が「少しでも皆さまのお役に立てればと考えて構成したプログラムとなります。長時間となりますが皆さまにご活用いただけるフォーラムになればと願っています」とあいさつを述べた後、林芳正文部科学大臣のお祝いメッセージを披露。その後、フォーラムがスタートしました。
プログラムの中で、小学校と中学校の道徳科の授業のまとめとして、 “はがき新聞”を活用した実践例が発表されたこともあり、休憩時間などには会場ロビーに展示された小中学生の作品に多くの参加者が見入りました。
児童生徒の“リアルな学びの姿”を評価することこそが『主体的・対話的で深い学び』のある授業であり『考え、議論する道徳』につながる
特別講演『学習指導要領改訂の要点 ― 特別の教科 道徳の実施に向けて ― 』で浅見哲也先生は、今年4月から小学校で始まった道徳科の授業について、[変わらないこと=道徳教育と道徳科][求められていること=新学習指導要領の趣旨・道徳科の授業改善][変わること=道徳科の評価]と明確にしたのち、それぞれについて解説を行いました。
まず、[道徳教育と道徳科の関係]について、「道徳教育は、『よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う』を目的に、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てるための“道徳科”を要に、学校活動全体を通じて行うものです」と明言。そのうえで、[新学習指導要領の趣旨]について、「生きて働く『知識及び技能』の習得」「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』の涵養」を育成すべき資質・能力の三つの柱としたうえで、“すべての教科等”と“道徳科”で行うべきことを比較しながら説明しました。続いて「考え、議論する道徳」を実現するために必要な[主体的・対話的で深い学び]について、“自分ごと”と“多面的・多角的”がポイントになると述べました。
参加者の一番の関心事でもある[道徳科に求められる評価]については、まず、道徳科の評価の基本的態度として、「道徳科は道徳性を養うことがねらいである」「道徳性が養われたか否かは容易に判断できるものではない」「学習状況や成長の様子を適切に把握し、評価することが求められる」の3点を強調。そのうえで、「道徳科の評価は児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要があります。ただし、数値などによる評価は行わないものとします」と説明した浅見先生。さらに、他の児童生徒との比較ではなく、本人がいかに成長したかを個人内評価で行うこと、「多面的・多角的な見方へと発展しているかどうか」「道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかどうか」等を重視しなければならないことなど、評価の在り方の詳細について解説しました。
最後に浅見先生は「道徳科の授業は、毎時間がメイク・ドラマです。深い学びにたどり着くための答えは目の前にいる子どもたちのなかにあります。だからこそ、児童生徒の“リアルな学びの姿”を評価しなければなりません。それこそが、『主体的・対話的で深い学び』のある授業であり、『考え、議論する道徳』です」とまとめました。
児童生徒の考えを表出し継続的に学びの履歴を残すツールとしての“はがき新聞”の有効性について
基調提案『学級づくりの視点を重視した道徳教育 ―学級力を高めるはがき新聞の活用を通して―』では、実践事例の発表に先立ち、今宮信吾先生は“学級力向上プロジェクト”について説明した後、「学級力アンケート調査(R)」を起点とした[R-PDCAサイクル(調査R→計画P→実行D→点検・評価C→修正A)]について説明。続いて、道徳科や教育活動全体で行うべき“道徳教育”と、学級活動や委員会活動、クラブ活動、学校行事などの“特別活動”をつなぐことが学級づくりの視点であり、それこそが“学級力向上プロジェクト”として位置付けてきた取り組みであると述べました。
また、国語科の教諭の立場から、国語科と道徳科の目的の違いを説明し、そのうえで、生徒たちの考えを表出するツールとして、また、継続的に学びの履歴を残す手段として“はがき新聞”が有効であると説明。さらに、学級力を向上するために取り組んできた三つのポイント「①子どもの主体性を生かす ②子どもの共同性を生かす ③子どもの想像性を生かす」は道徳科の授業にも当てはまるのではないかという考えのもと、学級力向上研究会関西部会では各先生方が自校にて様々な実践を行っていることを紹介しました。
実践事例1として、宇都亨先生が小学校4年生の道徳科の授業で行った教科書教材を使った事例を紹介。子どもたちが“多面的・多角的”に捉えやすいように行った工夫や、気持ちを表すカードなどを使った可視化の方法、さらに振り返りカードやワークシートとして“はがき新聞”を活用する方法などについて、実際の授業の様子を紹介しながら説明。最後に、道徳の授業と前後して取った学級力アンケートの結果と、その結果を見据えて子どもたちに書かせた“はがき新聞”も紹介しました。
実践事例2として、平林千恵先生は、学校の課題として抱える“学力の格差”、学級の中の様々な“差”を述べたうえで、“学級力向上プロジェクト”と道徳科の両面から取り組んだ事例を紹介。まず、1時間目に教科書教材を使い、よりリアルに、そして切実感をもって“自分ごと”として受け止められるように話し合いを促したこと、2時間目に実在する人物について考えさせることにより、様々な角度から「よりよく生きる」という主題について考えさせたことを説明。その後、「よりよく生きる」を自分たちの行動に落とし込み、授業のまとめとして“はがき新聞”を活用したことを述べました。
その後、今宮信吾先生が道徳教育(道徳科)の課題と期待について述べ、基調提案は終了しました。
道徳科の評価は達成度ではなく児童生徒がどのように成長したかを評価するもの
田中博之先生をコーディネーターとしたシンポジウム『道徳科における授業づくりと評価のあり方』では、小学校校長2名と中学校教諭2名、計4名の先生が実際に行った道徳科の授業と“はがき新聞”の活用について、さらに道徳科における評価をどのようにするのかを順番に紹介。その後、浅見先生がそれぞれの取り組みについて、参考にすべき点や改善点など、意見を述べました。
まず、坂本哲彦先生は、4年生と5年生を対象に行った道徳科授業について紹介。一人の人物の別々の場面の行動を分けて比べることにより、“多面的・多角的”かつ“自分ごと”として考えられるよう促したことを紹介しました。蛯谷みさ先生は、6年生を対象に行った2時間小単元による道徳科の授業について紹介。道徳科の授業を特別活動へと発展させ、さらに班ごとからクラス全体へと話の場を広げることで“多面的・多角的”な考えへと導き、まとめとして“はがき新聞”を活用したことを説明しました。また、彦田泰輔先生と山田誠一先生は、それぞれ道徳的価値について理解する学習として“心の関係図”や“はがき新聞”を活用した道徳科の授業を実施し、それに関連付けた学級づくりを行った事例を発表。両先生はそれぞれ、まだ教科書教材のない中学校において道徳ワークショップや自作読み物資料を使った授業展開について具体的に説明しました。
4名の先生方の実践事例および評価についての紹介の後、感想を求められた浅見先生は「道徳科の授業の評価は、継続的に授業を行ったうえで“はがき新聞”などをうまく活用しながら、『子どもたちがどのように成長できたか』を評価していただくことになります」と述べたうえで、全教育活動を通じて行う道徳教育の評価についても言及しました。
最後に田中先生が「道徳科の具体的な授業づくりと学習評価のあり方などの課題はありますが、浅見先生が言われるように、今後は教科横断的な全教育活動のなかでの評価についても考えていかなければならないでしょう」とシンポジウムを総括しました。
最後の質疑応答では、浅見先生はもちろんのこと、シンポジウムでご登壇された先生方、基調提案をされた先生方に対し、フォーラムの参加者から多数の質問が寄せられました。「道徳科の時間だけでどうすれば深い理解を与えられるのか」という質問について、浅見先生はシンポジウムでの事例発表を例に挙げながら、全教育活動を通じて事前に子どもたちに働きかけておく必要があると回答。また、評価については「全教育活動を通じ“どんな子どもを育てたいのか”を考え、それに基づいて道徳科の授業だけでなく、総合的に評価していただきたい」と答えました。そのほか、「通知表にどのように評価を書けばよいのか」という質問については、坂本先生が道徳科の授業が始まった時点で評価の文例を30~40ほど各教諭に配り、その文例のような”子どもたちの見方“ができるよう、授業の統一化を図ったことを紹介しました。
質疑応答の後、閉会の挨拶に立った当財団の斎藤靖美専務理事は「今回は“道徳”をテーマにフォーラムを開催いたしました。現場の先生方のリアルな事例と浅見先生の解説により、ご参加いただいた皆さまにとって非常に参考になるフォーラムになったかと存じます。本日は長時間ありがとうございました」と挨拶を述べました。
今回も約5時間の長丁場となりましたが、いずれの参加者も真剣な面持ちで先生方の発表に耳を傾け、発言をメモするなど、非常に活気のあるフォーラムとなりました。
→ 財団だよりトップページへ戻る