学校は著作権の「宝庫」
弁護士 神谷 信行
 
著作物には許諾が必要

学校に一歩入れば、図画、作文、習字、彫刻、かべ新聞など、児童生徒の「著作物」が満ちあふれている。「授業」そのものも、創意工夫が施されていれば立派な著作物である。授業に使う教科書、楽譜、テスト問題や図書室の本、音楽CD、ビデオ、パソコンのソフトなども著作物であり、学校はまさに「著作物の宝庫」である。これらの著作物は著作者の英知の結晶であり、深く作者の「人間の尊厳」に根ざしている。
著作物が作られると、人格権としての公表権、氏名表示権、 同一性保持権* が生じるほか、財産権として使用許諾を与える権利が生じる。わが国では届出等の手続をふまなくても、作品を作ったその時に著作権が生じるので、授業中に続々と著作権が生まれているのである。
著作物が作られると、これをコピーしたり、演奏したり、ホームページに掲載して利用するとき、著作権者の許諾が必要となる。児童生徒にもこの許諾権があるのだということを、教育現場に立つ方々一人一人に、明確に認識していただきたい。

使用許諾の考え方

使用許諾は、例外的に、これを得なくてもよい場合がある。著作権法30条以下にこの例外が列挙されているが、その代表例が「学校その他の教育機関における複製」の場合である(3 5条1項)。この条文には次のように規定されている。
「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」
これによれば、(1)「非営利の教育機関」において、(2)「授業をする者」または「授業を受ける者」が、(3)「授業の過程」において、(4)「公表された著作物」を、(5)「必要と認められる限度」、かつ、(6)「著作権者の利益を不当に害しない範囲」で複製することについては、著作権者の許諾は必要ないことになる。
学校の授業の場でコピーをすることは、一般の商業的な利用の場合に比べて、幅広い許諾不要の例外が認められているが、それも無制限ではない。特に、前記の(5)、(6)の要件が、著作権者と利用者の利益の均衡をとっている。この「必要と認められる限度」と「著作権者の利益を不当に害しない範囲」等の要件については、著作権者側が作成した「ガイドライン」が公表されている。
http://www.jbpa.or.jp/35-guideline.pdf
この「ガイドライン」は利用者である学校側と全ての事項についての合意ができている訳ではなく、細かい論点についてはさらに議論が必要である。
この「ガイドライン」を参照しつつ、次に、具体的問題についてのケーススタディをしていきたいと思う。
*同一性保持権=自分の著作物の内容または題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利

かみや のぶゆき
1983年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。