第11回理想教育財団教育フォーラム

2019年8月18日(日):大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)

開催プログラム

開催テーマ

主体的・対話的で深い学びと「言葉」
―楽しく思考力・判断力・表現力を高めるために―

特別講演

新学習指導要領の方向性
―主体的・対話的で深い学びの実現に向けて―

講師國學院大學人間開発学部初等教育学科 教授

田村 学 氏

基調講演

言葉から具体的に考える「楽しくて深い学び」

講師早稲田大学文学学術院 教授

森山 卓郎 氏

シンポジウム

主体的・対話的で深い学びの実現について
―「はがき新聞」等の実践を通して―

シンポジスト 佐賀大学 教育学部 教授     達富 洋二 氏
高知県三原村立三原中学校 教頭  中野 こずえ 氏
酒田市立琢成小学校 教諭     齋藤 真結美 氏
コーディネーター 早稲田大学文学学術院 教授

森山 卓郎 氏

『主体的・対話的で深い学びと「言葉」』をテーマに
第11回理想教育財団教育フォーラムを開催

 第11回目となる今回の教育フォーラムでは、新学習指導要領の重要な課題である「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」について、ご登壇された先生方と共に、知識の構造化や豊かな語彙力の育み方、言葉を通して育む表現力などを検証しました。
 開会に先立ち、当財団の羽山明理事長が理想教育財団について説明したのち、「今日、何かひとつでもお持ち帰りいただけるようなフォーラムになればと願っています」と挨拶し、続いて柴山昌彦文部科学大臣のお祝いのメッセージを披露。その後、フォーラムがスタートしました。

主体的・対話的で深い学び『アクティブ・ラーニング』の視点からの学習過程の改善

 特別講演『新学習指導要領の方向性 ―主体的・対話的で深い学びの実現に向けて― 』では、田村学先生が新学習指導要領の方向性として、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」がポイントになることを挙げたのち、「どのように学ぶか=主体的・対話的で深い学び『アクティブ・ラーニング』の視点からの学習過程の改善」について解説を行いました。

 まず、「主体的・対話的で深い学び」の「深い学び」について、実際の子どもたちの様子を例に、知識のネットワーク化やパターン化、構造化などの視点から検証。そして、「『深い学び』とは、知識・技能が関連付いて構造化されたり身体化されたりして高度化し、駆動する状態に向かうことである」と定義付けました。
 続いて「深い学び」を実現する授業のイノベーションについて、INPUTよりもOUTPUTが重要であることを説明。そのうえで、「課題に対して、自ら考え、自分から取り組んでいくこと」「話し合い等の活動で、自分の考えを深めたり、広げたりすること」などについて、具体例を挙げながら説明しました。さらに、「主体的・対話的で深い学び」を実現する教師力、可視化や操作化などにつながる「深い学びを促進する思考ツール」の重要性を説いたのち、授業の最後に振り返りをさせることが「深い学び」を実現すると提唱。そして、①プロセスの充実を図る②音声言語でインタラクションする③文字言語でリフレクションする、この3点を授業改善のポイントとして提唱しました。最後に田村先生は、「授業のイノベーションは学習者主体でなければなりません。そのためには、プロセスの充実、学び合い、振り返りが重要になります」とまとめました。

具体的な「言葉」から考えることで高められる思考力と表現力

 基調講演『言葉から具体的に考える「楽しくて深い学び」』では、森山卓郎先生が、まず、国語の難しさとして、「言語活動の根本の教科として、他教科の学習の根本にも関わる」「そもそも使えている母語。学習内容が見えにくい」の2点を挙げました。そのうえで、「国語という科目の見方・考え方」「表現分析のポイント」を解説したのち、教科書に掲載されている詩を例に「言葉」「表現」を考えるためには構造に注目することが重要であること、語の意味をおさえるためには自分の考えを持つことが大切、そして、ひとつの語でも誤解すると物語の解釈が微妙にずれることなどを説明しました。

 続いて、考えたことを言葉でまとめるために必要な「語彙力」を身に付けさせるためには、“使える”がポイントになると断言。そのために有用なツールとして「はがき新聞」などを紹介しました。また、語彙指導の取り組みでの課題点として、文脈のなかで正しく使えているかどうかの確認が必要であること、そのためには実生活のなかで「言葉」を意識し、「言葉のポケット」にメモをさせることで意味と用法を身に付けさせるべきだと言及。さらに、子どもたちの感想文の発想や言葉は教師がいかに思考を深めることに役立つ「見方」を表す言葉を使っているかどうかで異なってくることを、感想文のなかに頻出した語を2学級で比較しながら解説しました。さらに、森山先生は、思考を深める手立てとしての語彙について、接続詞、副詞や節が使えるようになる必要性を提言し、学年により頻出度などを挙げながら説明しました。最後に、「学びを下支えするのは語彙力」と強調したうえで、再度、「言葉のポケット」と「はがき新聞」の有効性について説明しました。

語彙を増やし、言葉を深める「言葉のポケット」と「はがき新聞」の活用

 森山卓郎先生をコーディネーターとしたシンポジウム『主体的・対話的で深い学びの実現について ―「はがき新聞」等の実践を通して―』では、達富洋二先生、中野こずえ先生、齋藤真結美先生が登壇し、「はがき新聞」や「言葉のポケット」などの具体的な活用方法についてディスカッションしました。

 まず、達富先生は、言語活動を通した学習を自律的に進めるためには子どもの傾向を3パターンに分け、それぞれ目指すべき目標を定めなければならないと提唱。そして、それを実現するためには、「学習の振り返りを『はがき新聞』に書く」「『私の問い』とその解決について『はがき新聞』に書く」「語彙について考えたことを『はがき新聞』に書く」と「はがき新聞」の活用事例を挙げ、実際に子どもたちが書いた「はがき新聞」を紹介。さらにそれらを実践したことで子どもたちがどのような成長を見せたか、具体的な数字を提示しながら解説しました。続いて、中野こずえ先生は、前任校にて、学校全体で「場に応じた言葉遣い」「集会の発表や終学活の一日の振り返りを豊かな言葉で」を目標に語彙指導を実施した事例を紹介。具体的な取り組みとして、国語科では「はがき新聞」に書いたことをもとに他者と交流させたことや、論語についてまとめる「論語新聞」などにより、語彙力を高めた事例を発表しました。さらに、同校では、防災をテーマに自分や家族、町の様子を800字程度の小説にまとめる「防災小説」にも取り組んでいることを作品紹介しながら紹介。その結果として、文章力、語彙力はもちろんのこと、表現力や考える力が身に付いたことを説明し、同様の取り組みを現在の赴任校でも行っていることを紹介しました。また、齋藤真結美先生は、小学校1年生にも自分の思いや気持ちを言葉で豊かに表現できるようになって欲しいと、成長に合わせながら語彙力を育成した事例を紹介。言葉を文にする楽しさを味わわせるために「はがき新聞」をまずは国語科で導入したのを皮切りに、授業のまとめ、行事の感想、言葉あそびなど、様々な場面で「はがき新聞」を展開したことを実際の「はがき新聞」を紹介しながら説明しました。合わせて語彙力を増やすために欠かせない「言葉のポケット」の有効性や辞書の活用などについても解説。最後に「言葉のポケットやはがき新聞の活用は子どもたちの自信につながり、それらは子どもたちの宝物になります」と述べました。

 途中、事例発表が終了するごとに森山先生より先生方に対し、子どもたちに「はがき新聞」や「言葉のポケット」をうまく活用させる秘訣について質問が行われました。また、参加者の方からの質問の時間には「小学校低学年に太文字の書き方やカラーバランス、割り付けの仕方をどのように教えれば良いのか」といった具体的な質問が寄せられました。
 最後に、森山先生が「『主体的・対話的で深い学び』の実現について、『はがき新聞』のようなコンパクトに書くという学習から学力が伸びていくという達富先生のお話、そして、語彙の学習などをしたうえで『防災小説』といった試みで言葉の力を発揮させようとする中島先生のお話、そういう力をつくるために小学校低学年から取り組みを始めれば語彙力や文章力が伸びるといった学びの姿を紹介してくださった齋藤先生。非常に意義深い事例発表となりました」とシンポジウムをまとめました。

 最後の質疑応答では、森山先生はもちろんのこと、シンポジウムに参加された先生方、特別講演をされた田村先生が登壇し、時間の許す限り参加者の方々の質問に答えました。
 まず、田村先生が「思考ツールの活用について」の質問に対し、班ごとにベン図をつくり議論するだけでなく、最終的には子どもたち自身が文字言語につなげられるようになければならないことや、黒板に各班のベン図を貼って見比べることも「深い理解」につながるとアドバイス。「子ども中心の授業の仕方」については、①反復学習など教師主導の授業のときも子どもたちが興味を持つように工夫する②指導後に子どもたちが“使えた”と実感するようにする、の2点が重要と回答。それを受け、齋藤先生は「自分からやっている」と子どもたちに感じさせる教師の声掛けがポイントになるとアドバイスしました。また、達富先生は、「子どもたちは乗せられていることを実感している」と述べたのち、“後に残るような力”を育むためには、クラス像などを断片的な情報として与えるのではなく、4月の段階で全体像を与え、それに向かって教師が乗せ、子どもたちが乗ることが不可欠と説明。その実例として、中野先生は「防災小説」を中学校3年生だけで取り組ませるのではなく、事前の防災教育や小学校に出前授業に行くことで、あらかじめ「中学生になったら、防災小説を書く」と認識させることにより「防災小説」を集大成として取り組んでいることを紹介しました。続いて、田村先生は「子どもたちが学習の輪に入らない」という質問に対し、基本的に子どもたちには学びに向かう意識はあると強調。そのうえで、①きっかけをつくる②みんなのなかに入ったときの居心地が良い③得た感覚を自分のものと認識できる、この3つを本人が自覚できるように教師が促すことが重要になると回答しました。また、森山先生は「思考を深めるために役立つための見方」に対する質問について、輪の中に入れない子どもは思考を深めるときの言葉が自分のものにできていない可能性があると言及。“使う”という概念を与えることがポイントになると述べました。最後に先生方が一言ずつアドバイスやフォーラムの感想を述べたのち、森山先生が「先生方のお話を伺い、“学びの大切さ”を改めて実感しました。苦手な子どもたちも良く出来る子たちもどんどん伸びて欲しいと思いました」とフォーラムを総括しました。

 質疑応答の後、閉会の挨拶に立った当財団の斎藤靖美専務理事は「『はがき新聞』の取り組みは約10年を経て、2300校強にまで広がりました。ご参加いただいた皆さまの明日からの教育活動の糧となれば幸甚です。次回も8月に大阪で開催したいと思っています。本日は長時間ありがとうございました」と挨拶しました。

 今回も約5時間の長丁場となりましたが、いずれの参加者も熱心にメモを取りつつ、真剣な面持ちで先生方の発表に耳を傾け、発言をメモするなど、非常に有意義なフォーラムとなりました。また、プログラムのなかで「はがき新聞」や「言葉のポケット」を活用した小・中学校の実践例が発表されたこともあり、休憩時間などには会場ロビーに展示された小中学生の作品に多くの参加者が見入りました。

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