ブックタイトル季刊理想 Vol.129
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季刊理想 Vol.129
●中村 浩志先生プロフィール1947年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002年、カッコウの研究で第11回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。連 載 人間と鳥の世界●中村 浩志(信州大学名誉教授 中村浩志国際鳥類研究所代表理事)10季刊理想 2018秋号 ◆ 1516 アカマツ林にドングリを運ぶのは誰か? カケスという鳥をご存じでしょうか。大きさはハト位、白地に黒斑のあるゴマ塩頭をした鳥です。体全体は紫がかった暗褐色で、翼には鮮やかな空色があり、飛んだ時には腰の白とともによく目立ちます。九州以北の低山の森に棲む日本人にはなじみの鳥です。 私がこの鳥を研究したのは、信州大学に戻った30歳代の初めです。きっかけとなったのは、長野県の菅平高原にある筑波大学実験センターで開かれた研究発表会でした。ここの園内で林一六さんがアカマツ林に調査枠を設け、長年にわたり研究していました。調査枠の近くには、ドングリをつけるミズナラの母樹は一本もないにもかかわらず、アカマツ林の林床には毎年ミズナラの芽生えがあり、数十年後には現在のアカマツ林はミズナラ林に変わってゆくことを、両者の成長速度の比較から結論されました。 この発表を聞いた私は、アカマツ林にドングリを運んでいるのは、カケスである可能性が高いことを指摘しました。カケスは、カシ鳥とも呼ばれ、ドングルをつけるカシの木やナラの木と密接な関係があり、秋にはドングリを収穫し、貯蔵することが知られています。餌台からのドングリ運び このことがきっかけで、同センターの園内でカケスを調査することになりました。紅葉が終わった1981年の11月末のことです。その年の冬、園内にピーナッツを置くと、カケスは簡単に餌づいたので、網で捕獲し、翌年の春までには園内の12羽すべてに足輪をつけることができました。 ミズナラは、8月末には緑色のドングリをつけます。この頃から、動物たちはドングリの収穫をはじめます。カケスは、音もなくやってきて、枝先で翼をばたつかせながら嘴でドングリをもぎ取り、のどの袋につめて飛び去り、またやってきます。里山の森をつくる鳥 カケス 秋にドングリを収穫し、地面に貯蔵する、日本人にもなじみの鳥、カケス。 かつては人間、カケス、ドングリの木が互いに「持ちつ、持たれつ」の関係を築き上げ、豊かな里山が形成されていました。 ドングリ運びが本格化するのは、ミズナラがすっかり黄葉し、ドングリが地上に落ち始める10月中旬でした。この時期になると、夜にはアカネズミやヒメネズミもドングリ運びに加わります。たわわに実をつけ、一面に落ちていたドングリも、紅葉が終わり初雪の降る11月中旬には動物たちによりすっかり運び去られていました。 一年間の予備調査後、翌年から本格的に調査を開始しました。幸い、この年は例年になくドングリの不作年でした。園内でドングリをつけた木はわずか2本でしたので、竹の棒で枝を叩き、ドングリを青いうちに取り除きました。その代わりに、他の地域から集めたドングリを園内5ヶ所に設置した餌台に置きました。カケスのドングリ貯食行動 餌台にドングリを置くと、カケスはすぐに集まってきました。あたりを警戒し、餌台にさっと降りると、パ