ブックタイトル季刊理想 Vol.122

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概要

季刊理想 Vol.122

⑧ 森山 卓郎 早稲田大学文学学術院教授■一二三四五と違う? 「一二三四五」を順に声を出して読んでみてください。「いち、に、さん、し、ご」ですよね。では、「五四三二一」はどうでしょうか。「ご、よん、さん、に、いち」ではないでしょうか。何かが違います。そう、「四」の読み方です。 「四」を「し」と読むのは、漢語としての読み方です。漢語として読む場合は、「四十七士」「四六時中」など「し」ですし、九九を覚える場合も、「し」のようです。 私は、「四、七、二八」を「ししちにじゅうはち」のように唱えていた記憶があります。おそらく、「一二三」に続いて言う場合も、「いち、に、さん」が漢語なので、「し」が普通なのでしょう。 一方、和語では「よ」(言葉としては「ん」がついて「よん」になります)です。 「し」は「死」と同じ発音であるために避けられてきました。ふつう数字として使う場合には「よん」を使うことが多いようです。「四人」を「しにん」と読むことはありませんし、「午後四時四分四秒」を「ごごしじしふんしびょう」と読むこともないようです。単に数字の「四」を示す場合には、「よん」と読むことが多いのです。逆から「五四三二一」と数える場合、数字として一つ一つを取り上げる意識が強く出てくるため、「よん」の方を使うのだと考えられます。■ 「七」は「なな」?「しち」? 日本語の数字には和語と漢語の二通りの読み方があります。ついでながら、実はこの和語の「ひと(つ)、ふた(つ)・・・」ですが、なかなか数学的です。よく見ると「ひと(一)・ふた(二)」「み(三)・む(六)」「よ(四)・や(八)」のように倍数関係で形が似ています。 さて、数字の読み方ですが、ほかに、「七」を「なな」と読むか「しち」と読むかの違いもあります。これも和語か漢語かの違いです。「なな」は和語の読み方、「しち」は漢語としての読み方です。「七色」など、和語として一つの言葉になっていれば「なな」です。漢語として読む場合、例えば、九九を唱える場合は「七」は「しち」と読むことが多いのではないでしょうか。 ただし、両方使う場合もあります。「七人」をどう読むかには、方言的な違いもあるようで、関西出身の私は「ななにん」●もりやま たくろう早稲田大学文学学術院教授。京都教育大学名誉教授。専門は日本語学。近著に『教師コミュニケーション力』( 明治図書)、『日本語・国語の話題ネタ』(ひつじ書房)『日本語の〈書き〉方』(岩波ジュニア新書)など。五四三二一と読みますが、東京では「しちにん」と読むことが多いようです。ただ、東京でも、「七万七千七百七十円」は「ななまんななせんななひゃくななじゅうえん」と読むことが普通ではないでしょうか。「七」もこのように和語としての読み方をすることがあります。「しち」の発音がどちらもイ段で、少し発音しにくいことが原因だと思われますが、「しち」の「し」が避けられるということもあるのかもしれません。 たかが数字ですが、そこにも様々な使い分けがあります。 あれ?今はもう七時(しちじ?・ななじ?)。そろそろ出ないと・・・ 138 ◆ 季刊理想 2016 冬号