ブックタイトル季刊理想 Vol.122

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概要

季刊理想 Vol.122

●中村 浩志先生プロフィール1947 年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002 年、カッコウの研究で第11 回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。連 載人間と鳥の世界? 中村 浩志(信州大学名誉教授      中村浩志国際鳥類研究所代表理事)冬には1万羽を超える大群に ムクドリという鳥をご存じだろうか(写真左)。農耕地や村落、市街地の公園などに住み、日本ではごく身近な鳥です。4月から6月には木の洞や建物の隙間に巣をつくりますが、雛が巣立つ6月末ごろから群れ始め、夏、秋、冬を通して群れで生活しています。日中は農耕地などで群れているのですが、夜には集団で塒(ねぐら)をとる習性があります。夏には各地の林に小群で塒を取っているのですが、秋から冬にかけて次第に大群となり、冬には1万羽を超える大群で塒をとることもあります。 最近、このムクドリが都市の行政関係者を大変悩ませています。以前は、郊外に塒を取っていたムクドリが、最近市街地中心部の繁華街に塒を取るようになったからです。夕暮れと共に数千から数万羽のムクドリが市街地に集まってきて、空を黒くして旋回する姿(写真下)は不気味であるばかりでなく、街中で一晩にする糞は多量です。通行人の体や衣服、さらには車を汚すだけでなく、歩道一面に残された糞とその悪臭は、街の景観を台無しにします。その上、夜も大声で鳴くので騒音がひどく、精神的に問題をきたす人もいるほどです。 私の住んでいる近くの長野市でも、この問題が十数年前から深刻になりました。長野市の繁華街にあるケヤキ並木に、ムクドリが大群で塒を取るようになったから市街地からのムクドリ撃退作戦ムクドリヒマラヤスギの上空を旋回するムクドリの大群一晩中明るく、天敵のいない市街地に集まるムクドリの糞害と騒音が問題となっています。市街地に人とムクドリが一緒に住むことは無理と判断し、長野市でムクドリの撃退作戦を展開しました。その経験から、人と野生動物の好ましい関係を考えてみました。です。市民からの苦情に、市役所の職員はあの手この手の対策を十数年間とってきたのですが、一向に解決できません。事態がさらに悪化したのは、2年前の2014年です。それまでは、ケヤキの木の葉が落ちた12月以後は、郊外に塒を移していましたが、この年からは、隣の鍋谷田小学校のヒマラヤスギに塒場所を移し、善光寺平一帯から集まった数万羽のムクドリが冬期間を通して塒をとるようになったのです。下にあるバス停のベンチは糞で季刊理想 2016 冬号 ◆ 11