ブックタイトル季刊理想 Vol.122

ページ
11/24

このページは 季刊理想 Vol.122 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

季刊理想 Vol.122

●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。学校と法律<第34 回>弁護士 神谷 信行●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。ノーベル文学賞受賞のボブ・ディランと著作権2016年10月13日、ボブ・ディランへのノーベル文学賞授与が報じられ、歌手への初めての授与ということで評判になりました。これについて賛否の議論が起こりましたが、私は素直に受賞を讃えたいと思います。リーを慕う言葉や、尊敬する人の名前を織りこんだほか、ガスリーの「実りの牧場」から「We come withthe dust and we go with the wind」の詞句を引用して作られています。アメリカ著作権法の「フェア・ユース」規定 ディランは『自伝』の中で、フォークソング(民衆の歌)とは「受け継がれてきた歌だ」とし、歌詞やメロディーを承継、発展させていくのが「民衆の歌」であると考えていました。 時として曲の借用が訴訟となったこともあります。有名な「Don't Think It Twice, It's All Right」(くよくよするな)は、友人ポール・クレイトンの「Who'sGonna B uy You R ibbons?」に基づいていたため訴訟になりましたが、裁判外の和解で解決しています。 また、親しいカントリー歌手の曲が気に入り、借用することを申し出たところ、相手はこの曲はディランの曲から借りたのでOKだと言い、伝承が循環した逸話もあります。さらに、ディランには『"Love AndTheft"』("愛と盗み")というタイトルのアルバムもあり、敬愛するがゆえにその曲を取り入れるということを暗示したものがあります。 ボブ・ディランはブルース、ゴスペル、フォーク、ロックンロール、ジャズなどアメリカ音楽のルーツに根ざし、先人を敬愛しつつ、アメリカ著作権法の「フェア・ユース」規定(先人の名誉声望を害しない利用は自由であるとの規定)に根ざした曲作りを、今日まで続けてきたと言うことができるでしょう。 ボブ・ディランの歌詞を味わいながらじっくりと曲を聴きなおしてみたいと思います。伝統を踏まえ現代的表現を創造 ディランの本名はロバート・アレン・ジンママンでしたが、朗読を重視したウェールズの詩人ディラン・トーマスから「ディラン」を承継しました。 『ボブ・ディラン自伝』(菅野ヘッケル訳)をみると、同時代のケルアックらビート派詩人以外にも、バイロン、シェリー、コールリッジ、ランボー、T・H・エリオットらの詩を愛読しています。 作詞技法をみると、自由律を用い対句や反復法を多用したホイットマンの手法を取り入れたり、イギリスの物語詩(バラッド)の形式を借りて現代人の不安、葛藤、抵抗の意志を盛り込み、伝統を踏まえつつ現代的表現を創造した点、ディランの作品群はノーベル文学賞の名に十分に値するものと言えるでしょう。伝承曲や先人の曲に歌詞を ボブ・ディランは1962年にレコード・デビュー後、足かけ55年の音楽活動を続けています。この間発表したアルバムは50枚を越えていますが、その中で最も知られているのは、1963年発表の「Blowin' InThe Wind」(風に吹かれて)ではないかと思います。公民権運動のさなか、九つの質問を連ねて訴えかけるこの歌は人々の心をうち、今も歌い継がれています。 この「風に吹かれて」は、黒人霊歌の「No MoreAuction Block For Me」の旋律を下敷きにしています。この曲に限らず、ディランは多くの伝承曲、尊敬する先人の曲に自分の歌詞をのせています。 例を挙げると、ボブ・ディランの最初のオリジナルとされる「ウッディに捧げる歌」は、敬愛やまないウッディ・ガスリーの「1913年の大虐殺」の旋律に、ガス10 ◆ 季刊理想 2016 冬号