ブックタイトル季刊理想 Vol.122

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概要

季刊理想 Vol.122

子どもと生き方⑫吉本 恒幸 聖徳大学大学院教授新しい学習指導要領を読み解く総則編 その(5)●よしもと つねゆき聖徳大学大学院教授。全国小学校道徳教育研究会会長、公立小学校長を歴任。日本道徳教育学会会員。文部科学省道徳教育指導資料作成委員。中央教育審議会委員などを務める。季刊理想 2016 冬号 ◆ 9 福島第一原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年生男子生徒がいじめを受けて不登校になった問題は、皆さんの記憶に新しいと思います。残念ながら、いじめによる自殺の報道も後を絶ちません。 「道徳の教科化」が急がれたのは、いじめに対する道徳教育の効果を期待する理由もありました。総則ではそのことを明記しています。 学校や学級内の人間関係や環境を整えるとともに、集団宿泊活動やボランティア活動、自然体験活動、地域の行事への参加などの豊かな体験を充実すること。また、道徳教育の指導内容が、児童の日常生活に生かされるようにすること。その際、いじめの防止や安全の確保等にも資することとなるよう留意すること。1 人間関係と環境 子供の道徳性の多くは、日々の人間関係の中で養われます。学校での人間関係は、教師と子供、子供相互のかかわりでとなります。 教師と子供の人間関係は、教師に対する子供の尊敬と共感、子供に対する教師の教育的愛情などが基本となります。教師が自ら人間としてよりよく生きようとする姿勢を示したり、子供から学ぶ姿勢を見せたりすることが信頼の基盤となります。 子供同士の人間関係を築くには、互いの交流を深め、一人一人が認め合い、励まし合い、学び合う機会と場を意図的に設けるとともに、教師は絶えず子供の人間関係の変化に目を向け、実態の把握に努める必要があります。 環境は子供に多大な影響を与えます。言語環境、整理整頓された教室環境、温かくふれあえる動物飼育、感動を与える魅力ある掲示物など、人的環境とともに物的環境への配慮はきわめて重要です。2 豊かな体験の充実 子供たちの生活経験の未熟さは、心の成長にも影を落としています。したがって、協力して役割を果たすことの大切さなどを考える集団宿泊活動、社会の一員としての自覚を高め自身の人間的な成長が期待できるボランティア活動、自然や動植物を愛し、大切にする心を育てる自然体験活動など、多様な体験活動の充実が求められています。 また、地域社会の行事への参加も、年齢の異なる幅広い人たちと接し、人々の生活、文化、伝統に親しみ、地域社会に対する愛着を高めるだけでなく、地域社会に参画する態度を育てることにつながります。地域社会が活性化することが子供の心の活性化に結びつくのです。「絆」という言葉が私たちの胸に刻まれています。人としての豊かな人生は地域社会の上に成り立っていることを子供に理解させる必要があります。3 いじめの防止 いじめは、子供の心身の健全な発達に重大な影響を及ぼす深刻な問題です。子供から大人まで、社会全体でいじめの防止に取り組む必要があります。すでに「いじめ防止対策推進法」が施行され、学校では、いじめ防止に対する基本的な方針や組織を立ち上げ、いじめの防止、早期発見、早期対応に向けて一丸となって取り組むことが求められています。 しかし、形だけの組織づくりや指導では何の効果もないことは、冒頭示した原発事故に起因するいじめ問題が証明しています。 要は、日常の教育活動に目を向けて実践することです。命を大切にする心や、互いを認め合い、協力し、助け合うことのできる信頼感や友情、節度ある言動、思いやりの心、寛容な心などを、教育活動全体を通して意識的に育むことが重要です。まさにこの営みは道徳教育の存在意義に関わるものです。・・・・・・・・・・・・ いじめへの対応は、子供がいじめの間違いに気付き、友達と力を合わせたり、教師や家族に相談したりしながら正していこうとするなど、主体的に関わる態度が基盤になければ防止や解決には至りません。そのためには、子供たちを信じて励ますとともに、共にいじめに対して毅然と立ち向かう教師や大人の姿勢を示すことが必要です。道徳教育は、教師と大人にも当てはまるものです。