ブックタイトル季刊理想 Vol.121
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季刊理想 Vol.121
2 ◆ 季刊理想 2016秋号ネパールは世界最高峰エベレストと仏陀生誕地ルンビニのあるところとして知られています。昨年は大地震に見舞われ、首都カトマンドゥでも歴史的建造物が倒壊するなど大きな被害を受けました。私は、これまで南アジアの子どもたちの生活と教育に関する調査研究に関わってきました。縁あってネパール人と結婚してからは、単なる外国人の視点からではなく、ネパール社会をより内側から見ることができるようになりました。ネパールの学校教育は近代化と共に普及しましたが、現在でも、村落地域では、経済的理由で勉強を続けられない子どもたちが大勢います。学校に行きたくても行けない子どもたちのいるネパールは、学校に行きたくない子どもたちのいる日本と対照的だといえます。幹線道路から離れて、山道を何時間もかけて辿り着く小さな村にも学校が建てられています。村の子どもたちにとって、学校とは、貧しい生活から抜け出し、新しい世界へ向かう入口なのです。机と椅子があるだけの教室で目を輝かせながら学んでいる子どもたちに、将来の夢を尋ねてみると、「外国で働いて、たくさんお金を稼いで家に送りたい」という答えが多く返ってきます。産業資源の乏しいネパールでは多くの若者たちが海外へ出稼ぎに行かざるをえません。都会の学校で英語教育をしっかり受け、米国やオーストラリアに留学し、卒業後も留学先で良い仕事につく人たちもいますが、村落地域の若者の多くは中東などで肉体労働に従事することになります。中には、過酷な労働で病気になったり、命を落としたりする者も出てきます。学校の成績が良いと、住み慣れた村を出て、首都カトマンドゥへ、そこから外国へと向かいます。若者の離れた村は、どこか日本の地方の光景とも重なります。教育を受けるということはいつか故郷を離れることでしかないのか・・・複雑な気持ちになってきます。確かに、ネパールの教育環境は日本のように十分だとはいえませんが、村の子どもたちを見ていると、今の日本では、失われてしまった生活力や逞しさというものを強く感じます。それは、日常生活の中でさまざまな体験を通して得られる生きた知恵といってもよいでしょう。一方、日本では、生活体験を通して学ぶ機会というものが少なくなり、子どもたちの生活力をどう高めていくかということは大きな教育課題だといえます。ネパールの子どもたちを見ていると、教育の本質を巡るさまざまな問題に気づかされます。今、理想教育財団の支援により、大地震の被害の大きかった村の学校を支援するプロジェクトを進めています。大地震は貧困層を直撃し、文房具を買うことさえ困難な家庭もあります。財団の支援によりヤギを購入し、そのヤギを育てることで得られる収入によって村の学校を継続的にサポートしていこうという試みです。このプロジェクトによって、一人でも多くの子どもたちが安心して学べる環境が実現できることを願っています。学校は新しい世界へ向かう入口ネパールから教育について考える 大妻女子大学教授 金田 卓也 ●金田 卓也(かねだたくや)東京藝術大学大学院博士課程修了 (学術博士)。専門は芸術教育学。大妻女子大学教授。東京大学大学院教育学研究科客員教授などを歴任。インドの思想家・教育者クリシュナムルティーの開いたリシヴァリー・スクールでも教える。主な著書は『ストレスのない子育てとシンプルライフ―インドから学ぶゆとりのある暮らし』創成社など。絵本作家でもあり、ネパールを舞台にした『ロミラのゆめ』偕成社がある。