ブックタイトル季刊理想 Vol.121
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季刊理想 Vol.121
●中村 浩志先生プロフィール1947年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002年、カッコウの研究で第11回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。連 載 人間と鳥の世界?中村 浩志(信州大学名誉教授 中村浩志国際鳥類研究所代表理事)声と姿をとり違えられた鳥 ブッポウソウという鳥をご存じだろうか。嘴と足が赤く、体全体が青く輝く色鮮やかな鳥です。ボルネオ、ニューギニアなど東南アジアの島々で冬を過ごし、日本には5月初めに渡来し、北海道を除く本州、四国、九州に、かつては広く繁殖していた鳥です。ライチョウのように高い山に棲む鳥ではなく、人の住んでいる近くに、古くから見られた鳥ですが、現在は数が減少し、この鳥が見られる場所は極めて限られた地域のみとなりました。 この鳥が文献に登場するのは古く、平安時代初期に詠まれた詩歌です。特に有名なのが弘法大師の詩で、仏の教えの三つの宝(仏・法・僧)を一つの鳥の声に聞くと詠んだ「閑林独座草堂暁、三寶之声聞一鳥、・・・・・」です。この詩によって、仏の教えを唱える貴い霊鳥として「仏法僧鳥」、「三宝鳥」、また「念仏鳥」と呼ばれるようになりました。以後、上田秋成の「雨月物語」をはじめ、じつに多くの詩歌や物語に登場してきました。色鮮やかなこの鳥が夜に「仏法僧」と鳴く霊鳥であると、平安時代以降、千年以上にわたって信じられてきたのです。ライチョウが高山に棲む神の鳥に対し、ブッポウソウは低山の森に棲む霊鳥でした。それが、今から80年ほど前の昭和10年、夜に声の主を撃ち落としてみると、ブッポウソウではなく、フクロウの仲間のコノハズクであることがわかったという、大変有名なエピソードを持つ鳥です。森から追われ数が減少 以前は、長野県内にも各地に生息していた鳥ですが、1980年代には諏訪湖周辺で繁殖する2つがいにまで減少したと言われていました。ちょうどその頃、長野県の北の端、新潟県との県境にある栄村で、この鳥の新たな繁殖地が見つかりました。そのことがきっかけで、この鳥を研究してみることにしました。それ以来、研究室の当時の学生であった田畑孝宏君とブッポウソウが語りかけるもの保護のため、ブッポウソウの巣箱かけが全国各地で実施されている人間の生活や文化と分かちがたく結びついている鳥。鳥類生態学を専門とする中村浩志先生に、人間とかかわりの深い鳥たちについて、楽しいお話をしていただく連載「人間と鳥の世界」第2回目はブッポウソウです。ブッポウソウは、すでに平安時代の初期に詠まれた詩歌に登場するとのことですが、実は現在の日本ではその数が激減し、貴重な鳥となっています。中村先生は、ブッポウソウが絶滅に瀕している事実をふまえ、現代日本人の生き方に警鐘を鳴らしています。季刊理想 2016 秋号 ◆ 13