ブックタイトル季刊理想 Vol.121
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季刊理想 Vol.121
●なかす まさたか1938年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。言葉の歳時記⑱兵庫教育大学名誉教授中 洌 正 堯憶えて活用したい秋の俳句 現行の小学校国語教科書に載っている俳句から50句ばかりを選んだ。秋は13句である。「憶えて活用する」というのは、憶えておいて、身の回りのものごとやできごとに接するとき、その見方、捉え方に習ってみようというものである。(俳句は読みやすい現代表記に統一した。) 荒海のはるか向こうに佐渡島が見える。天の河はどの向きか、想像してみよう。その昔、佐渡は流るにん人の島だった。 赤とんぼの群れと、由ゆいしょ緒のある筑波山と、雲もない青空の三つが同時に見える場所を想像の中で訪ねてみる。 赤とんぼの重みで葉末が少し傾いているのであろう。微びみょう妙なバランス感覚に身体的に同調してみる。 柿を食うこと、鐘が鳴ること、法隆寺、この三者の「配合」の是ぜひ非を問う。 「おりとりて」は意外性の実感。後の二句は、桐と柿、一葉と多くの葉、日の光と月の光、落ちるものとなお輝けるものとの対比を味わうことができる。 月見の行動のふりかえり。日本画仕立て。そして、独占欲と共鳴感覚。それぞれの月への接し方。 蝉とも、狸とも、秋を惜しむ心は一つ。*俳句学習のヒント* 和歌の優劣を競うのに「歌合わせ」というのがある。ここでは、次の作品の「句合わせ」をやってみよう。鐘つけば銀いちょう杏散るなり建長寺 夏目漱石柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規 「鐘つけば」の句が先にあり、子規がそれを知っていたことや、「配合」という考え方をヒントに、優劣を論じてみる。 「行く秋や」と「戸を叩く」にも挑戦。荒海や佐渡によこたう天の河松尾芭蕉赤とんぼ筑つ くば波に雲もなかりけり正岡子規柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺正岡子規赤とんぼ葉は ずえ末にすがり前のめり星野立子桐一葉日当たりながら落ちにけり高浜虚子柿の葉や一つ一つに月の影夏目漱石おりとりてはらりとおもきすすきかな飯田蛇笏名月や池をめぐりて夜もすがら松尾芭蕉名月やたたみの上に松の影宝井其角名月を取ってくれろとなく子かな小林一茶こんなよい月を一人で見て寝る尾崎放哉行く秋やつくづくおしと蝉せみの鳴く小林一茶戸を叩たたく狸たぬきと秋を惜しみけり与謝蕪村季刊理想 2016 秋号 ◆ 11