ブックタイトル季刊理想 Vol.120

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概要

季刊理想 Vol.120

●中村 浩志先生プロフィール1947 年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002 年、カッコウの研究で第11 回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。新連載人間と鳥の世界? 中村 浩志(信州大学名誉教授      中村浩志国際鳥類研究所代表理事)季刊理想 2016 夏号 ◆ 15 私たちの周りには多くの鳥たちがいて、人間の生活や文化と分かちがたく結びついています。鳥類生態学を専門とする中村浩志先生に、ライチョウをはじめ、カッコウ、フクロウ、ブッポウソウなどの珍しい、また楽しいお話を展開していただきます。第1回は、何万年も前から日本列島の高山に住み着いたライチョウについてです。氷河期から生き抜いた鳥 ライチョウは、ニワトリと同じキジ目に属しますが、ニワトリよりもひと回り小さい鳥で、年間を通して高山帯に生息しています。北アルプスや南アルプス、あるいは乗鞍岳などに登ったことのある人なら、登山道でいきなり遭遇した経験を持つ方も多いのではないかと思います。夏ならば白・黒・茶色のまだら模様、冬ならば真っ白な羽で全身を覆っています。いずれも天敵から身を守るための保護色です。梅雨明けの7月後半から8月なら、母鳥が可愛い雛を連れて歩く姿を見ることができるでしょう。 日本のライチョウは人を恐れませんので、高山植物の芽や葉、花などをついばむ姿などを、至近距離からじっくりと観察できるはずです。 ところでライチョウは、日本だけに生息する鳥ではなく、北極を取り巻くように、北半球の北部を中心に広く分布しています。日本のライチョウは世界の最南端に孤立した集団です。大陸と日本列島が陸続きだった氷河期の最後に入ってきた一群が、やがて海に隔てられて取り残され、そのまま日本に住み着いたものです。何万年も絶滅せず、この日本で生き抜いたことを私は「奇跡」だと考えています。 日本のライチョウの生息数は30年ほど前に実施された調査では約3千羽でしたが、減少傾向にあり、現在では約2千羽と言われています。外国のライチョウの姿に驚く 私が初めてライチョウを見たのは、恩師羽田健三先生に連れられて北アルプスの白馬岳にライチョウ調査に出かけた、信州大学3年生の6月下旬でした。早朝に入山し、大雪渓を登り切ったあたりで、羽田先生がライチョウを見つけました。100メートルほど離れた急斜面の崖の岩の上でじっとしています。羽田先生が、「雄が縄張りの見張りをしているのだ」と教えてくれました。さらに稜線に出ると、登山道で何と雌雄2羽が砂浴びをしています。まさに数メートル。感激奇跡の鳥ライチョウは、なぜ人間を恐れないか夏のライチョウ。岩の上で縄張りの見張りをする雄