ブックタイトル季刊理想 Vol.120

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概要

季刊理想 Vol.120

10 ◆ 季刊理想 2016 夏号⑧ 森山 卓郎 早稲田大学文学学術院教授■ 「絆」 地震のような大きな災害が発生したとき、助け合い、励ましあい、支えあうことの大切さを、本当に深く感じます。そういうときに大切にされる言葉の一つが「絆」です。「きずな」とは、もともとは動物などをつなぎとめておく綱のことを表していたようですが、現在では、切ることのできない深い結びつき、といった意味の言葉として使われています。この「絆」という字は、けがをしたときに貼る「ばんそうこう」すなわち「絆創膏」の「絆」という字でもあります(「創」は「傷」、「膏」は「塗ったり貼ったりする薬」のこと)。■ どう書く? 大切な「絆」という字ですが、活字と手書きで少し違うところがあります。それは、右側の「半」の部分の、上にある二つの点の向き。活字では、「ハ」という形ですが、手書きでは「ソ」という向きで書く場合が多いのではないでしょうか。ちなみに、「半分」の「半」という字の場合、点の部分は、「ソ」という向きになっています。 これは、基本的にデザイン上の問題です。点の向きが、「ハ」になっていても「ソ」になっていても、間違いとされることはありません。そういえば、糸へんの部分でも、活字体の「糸」と手書きの「」とでは、曲がり方や「はね・とめ」の形が少し違うのですが、これもデザイン上の違いです。これらは単なる字の形としての書き方の違いであり、いずれの形でも「間違い」とはされていません。■ 字形、字体 「字」の形にはいろいろなバリエーションがあります。例えば、「天」という字は、現在の日本では、上の横棒の方が長い書き方が一般的です。しかし、「」という上の横棒の方が短い書き方もよくしていました。現代の中国では、こちらの「」が一般的です。 さまざまに書かれ、印刷される一つ一つの実際の「字」の形は、「字形」と呼ばれます。これには、点の向き、はねるかどうか、少しまがるかまっすぐか、長さはどうか、など、無数のバリエーションがあります。その中で、「こういう形なら同じ字だな」として抜き出せる、形の上での共通した特徴は「字体」と呼ばれます。「竜/龍」、「島/嶋/嶌」など、同じ読み方、同じ意味の使われ方をする漢字の場合でも(このような場合「字種」は同じ、という言い方をします)、字としての骨組みが違っているので、「字体」は違●もりやま たくろう早稲田大学文学学術院教授。京都教育大学名誉教授。専門は日本語学。近著に『教師コミュニケーション力』( 明治図書)、『日本語・国語の話題ネタ』(ひつじ書房)『日本語の〈書き〉方』(岩波ジュニア新書)など。「絆」うことになります(「新字体、旧字体」という言葉もありますね)。私たちが字を書くとき、「字体」としての基本的な特徴をおさえておくことが必要です。 「字体」が違えば必ず「字形」は違いますが、「字形」が違っても同じ「字体」ということは十分にあり得ます。ですから、細かな「字形」の違いについては寛容になることも大切です。「絆」という字を書くとき、点の向きのような字形の細部の違いが大切なのではなく、その字の基本的な字体、意味、そして、その字を書こうとする「思い」が大切です。そう、今、一億人の書く「絆」という字には一億の個性とあふれる思いがあるはずです。11