ブックタイトル季刊理想 Vol.119
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季刊理想 Vol.119
2 ◆ 季刊理想 2016 春号戦後間もなく編纂された「国語科教科書」を手にした。概ね10年毎に改訂される学習指導要領。次期学習指導要領の全面実施は、平成32年度(2020 年度)に予定されている。現行の学習指導要領が、小学校では平成23年度、中学校では平成24年度から全面実施となったばかりだが、国レベルでは早くも次期学習指導要領の準備が本格始動となっている。その学習指導要領に準拠して編纂されるものが、「教科書」である。戦後、昭和22年学習指導要領一般編、各教科編が、「試案」の形で作成された。「試案」は、戦時下の教育観を払拭するために、新憲法、教育基本法の理念を追究しており、「経験カリキュラム」の考えを取り入れている。昭和23年教科用図書検定規則が制定され、昭和24年から検定教科書が使用された。民間における教科書編集の不慣れから、なかなか文部省著作教科書から離れられなかったようであるが、昭和26年になると、5社(二葉、日本書籍、学校図書、東京書籍、光村図書)、で編纂された全学年の国語科教科書が出揃った。私が手にしたのは、まさにその頃の教科書である。当時の新しい国語科教科書にかける意気込みがひしひしと伝わり、それを手にしたときには心が震えた。この時期の国語科教科書の特徴として、現行の教科書と違って生活単元となっている点と「指導者のために」という前書きがある点等があげられる。1点目については、その当時の経験主義に基づく国語科教育のあり方が示されている。例えば、1年生(上)では、登校から下校までの生活のながれで統一して、「おはよう」「がっこう」「はと」「せんせい」「さようなら」といった単元配列となっている。また、「まさおさん」「よしこさん」といった子どもたちが,同学年の子どもとして登場し、読み手の子どもたちと様々なことを体験しながら成長していく形をとっている点がおもしろい。特に注目したいのが、2点目である。教科書編集者の意図のようなものが読み取れる。例えば、6年生(下)の「指導者のために」には、「この本は、?6カ年の学習を統合して、世界の平和と文化の進展に寄与すべき人間の現成を主眼とし、郷土・祖国・世界を一貫して生くべき崇高な人間精神を養いながら、心身の発達に即して、国語学習における諸作業を自発的創造的に導くように組織し編集してある。特に、言語活動の拡大と深化を中心として、理解と表現の学習が興味のうちに有機的発展的に行われるように努めた。」とある。国語科教育の役割を言語の社会的機能、個人的機能、文化的機能を基に考え,ことばの教育目標を達成すると共に、国語科教育において「郷土・祖国・世界を一貫して生くべき崇高な人間精神を養いながら」主体的創造的に生きる人間教育であるとしている点である。 この主体的創造的に生きる人間教育という理念は、何と次回の学習指導要領の理念にも通じる。いや、今だからこそ、この理念を大事にしていきたいと考えるのである。「戦後教科書から学ぶ」 金沢星稜大学教授 佐藤 幸江●佐藤幸江(さとうゆきえ)横浜市の小学校主幹教諭を経て、2013 年4 月より現職。横浜国立大学大学院教育学研究科学校教育臨床専攻修士課程終了(教育学修士)。日本教育メディア学会理事、D‐project(デジタル表現研究会) 副会長。主な研究テーマは、「教科教育におけるICT の効果的な活用」「研究組織のマネージメント」「産学共同プロジェクトの実践的研究」など。主な著書に「タブレット端末で表現する協働的な学び―xSync‐シンクロする思考」(フォーラム・A 2014)、「つなぐ・かかわる授業づくり: タブレット端末を活かす実践52 事例 」(Gakken2014)、「ICT で伝えるチカラ 50 の授業・研修事例集―小学校全学年対応2013/8」(フォーラム・A2013)など。