ブックタイトル季刊理想 Vol.118
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季刊理想 Vol.118
閉じ込めた思いを、手紙で吐き出してほしい 岩手県沿岸部の最南端に位置する広田半島(陸前高田市)。幹線道路から外れて、深い杉林に囲まれた砂利道を進むと、山小屋風のカフェ店「森の小舎(こや)」があります。その手前に置かれているのが、昔懐かしい円筒状の郵便ポスト。東日本大震災などで亡くなった人に宛てた手紙を受け付ける「漂流ポスト3・11」のシンボルです。「森の小舎」の主人、赤川勇治さんが震災から3年が経過した2014年3月に開設しました。 きっかけは、その前年に赤川さんのもとに届けられた、旧友の死を告げる1枚の喪中はがきでした。「もっと話しておきたかった、会っておきたかった」。悔しさが心の中に沸き上がると同時に、時が経つにつれて震災で亡くなった遺族の悲しみに考えが及んでいったといいます。「朝、見送った大事な人が、あの津波で突然帰らぬ人になってしまった。被災地にはそんな経験をした人が数多くいます。その衝撃はいかばかりだったか。 三年一区切りともいうけれど、苦しい思いを閉じ込めたままの人も少なくない。そんな思いを吐き出していただく場所をつくりたかったのです」(赤川さん) 亡くなった人に宛てた手紙。本来なら、届くことがないものだけど、誰かが受け付けてあげればいい。そうした思いを胸に、赤川さんは漂流ポストの取り組みを始めました。手紙は毎年お寺で供養 知り合いの地方紙の記者が赤川さんの構想を記事にしたこともあり、1通目の手紙(はがき)はすぐに届きました。裏面には「あの日は苦しかったでしょう…/海水は冷たかったでしょう…」と書かれてありました。「文面に目を通した瞬間に、自分の甘さに気が付きました。何回読んでも涙が止まらない…。軽い気持ちで始めた漂流ポストでしたが、もっと被災者や遺族の気持ちに寄り添わなければとの思いを強くしました。手紙は毎年10月にまとめて、地域のお寺で供養していただいています」 これまでに県内外から届いた手紙の数は約120通。同じ差出人から定期的に送られてくることもあるとか。届いた手紙は専用のファイルに収め、店内に置いておきます。カフェに来店した人が閲覧できるようにとの配慮からです。「中には、心の整理がつかず、自ら筆を取ることができない方もいらっしゃいます。でも、ここで手紙を読むことで、『苦しいのは自分一人ではないんだ』と勇気づけることができるのではないかと思いました。実際、涙を流して手紙を読みながら、『自分もそうなんだ』とおっしゃる方もいます」手書きの有効性に改めて気づく 漂流ポストを始めて、赤川さんはもう一つ、大事なことに気づかされたといいます。それは手で文字を書くこと公開できる手紙はファイルに。その場で思いを綴ることができるノートも用意「漂流ポスト」で心の復興に貢献亡き人に宛てた手紙を受け付ける東日本震災で亡くなった大切な人に宛てた手紙を受け付ける「漂流ポスト3・11」。遺族の気持ちを少しでも和らげようと、震災から3年後の2014年から活動を始めた赤川勇治さんに、取り組みの経緯やその効果などについてお話をお聞きしました。季刊理想 2015 冬号 ◆ 7