ブックタイトル季刊理想 Vol.118
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季刊理想 Vol.118
10 ◆ 季刊理想 2015 冬号⑧ 森山 卓郎 早稲田大学文学学術院教授■「じ」はローマ字でどう書く? ローマ字を書く場合、現在、大きく分けてヘボン式と訓令式という書き方があります。例えば、「じ」とローマ字で書く場合、ヘボン式ではji、訓令式ではziとなります。 ヘボン式は少し英語を意識した書き方になっていて、例えば「し、ち、つ」は、「shi, chi, tsu」と書きます。確かに、「さしすせそ」「たちつてと」とゆっくり発音してみると、「し」「ち、つ」は同じ行のほかの音と少し発音が違うことに気づきます。イ段とウ段は母音に影響されて子音の発音が少し変わることがあるのです。そうした発音の仕方を反映しているので、ヘボン式は英語がわかる人には多少わかりやすい書き方だと言えます。会社やお店の名前もヘボン式がほとんどですし、道路標識やパスポートの表記もこのヘボン式が採用されています。 ちなみにこの「ヘボン」というのは、日本の近代化に尽力したJ.C.Hepburnさんというアメリカの宣教師・医師の名前です。現代なら文字を参考にしてヘップバーンと読む綴りですが、発音する場合、「ヘボン」の方がもとの英語の発音に近く聞こえます。ついでながら、「メリケン粉」の「メリケン」も同じような例。american を、文字を参考にして「アメリカン」と発音するよりも、「メリケン」と発音する方が原語の発音に近い印象ではないでしょうか。外来語をどういう音として認識するかは、考えてみれば難しいことです。言葉には固有の「音の区別の仕方」がありますし、その音にしても、文字と機械的に対応しているわけではありません。■訓令式 さて、訓令式は、ヘボン式よりも後に、あくまで日本語の音の区別を理論的に考えてできた書き方です。その名の通り内閣訓令による公式のものでもあります。例えば「si」と書くのは、「し」があくまでもサ行イ段の音であるという位置づけだからです。日本語の音の組織に合わせて整理してあるのでわかりやすく、ふつう小学校でローマ字を教える時にもまず訓令式を教えます。ISO3602(1989)という国際標準のローマ字化の規格でも訓令式の方が採用されています。●もりやま たくろう早稲田大学文学学術院教授。京都教育大学名誉教授。専門は日本語学。近著に『教師コミュニケーション力』( 明治図書)、『日本語・国語の話題ネタ』(ひつじ書房)『日本語の〈書き〉方』(岩波ジュニア新書)など。ローマ-JI?ローマ-ZI?■訓令式ローマ字を使うところも しかし、先ほど触れたように、日常生活でよく見かけるローマ字表記はヘボン式です。英語を意識するからでしょう。そんな中で、訓令式を使う例として一つ見つけたのは「にっしん」という名前。ホームページアドレスの表記で見れば、「日進市」という自治体はnisshin というヘボン式の表記のようですが、会社によってはnissinと表記しているところがあります。この訓令式の書き方だと、右から読んでも左から読んでも同じです。そうした見え方もこの表記が選ばれた理由かな?と想像して喜んでいるのは私だけでしょうか・・・。10