第2回 斜め読みでも理解されるための技術

今回のポイント

学級通信などの実務文は斜め読みされることを前提とせよ。
斜め読みされても理解されるためには、見やすさの工夫が重要だ。
見やすくするために、改行、見出し(タイトルも含めて)、情報構造の明示
 などの技術が必要である。


実務文では「斜め読み耐性」が重要

文章を書くときの心構えとして、芸術文と実務文とでは、大きな違いが一つあります。芸術文は、読み手が全文を必ず読んでくれるものとの前提に立って書くことが許されます。芸術文を味わって楽しむ読み手は、別に時間に追われているわけではないでしょう。最後まで読まなければ、「いったい、書き手は何が言いたいんだろう?」の答えが分からないままでもよいのです。

一方、実務文では、読み手が全文を必ず読んでくれるものとの前提に立って書いてはいけません。斜め読みされたり、読むことを途中放棄されたりすることも計算の上で書く必要があります。学校から家庭に向けて配布される連絡文書や学級通信、学校だよりなども例外ではありません。実務文は、たとえ「斜め読み」されても理解されるような特質、つまり「斜め読み耐性」を持っていなければならないのです。


「見やすさ」も分かりやすさ

文章術の解説で「読みやすくせよ」ではなく「見やすくせよ」と言うのは、妙に感じられると思います。しかし、分かりやすい文章には「レイアウトの技術」が欠かせません。レイアウトによって文章に「斜め読み耐性」を与えることができるからです。
文章を見やすくする技術には、具体的には次のような方法があります。

1. 改行や空白行で文章の風通しをよくする。
2.情報構造(親子関係、並列関係)を明示する。
3.「かたまり」境界を明示する。
4.見出しをつける。

ワープロやパソコン、あるいは電子メールなどで、いきなりキーボードを叩いて横書きで実務文を書く機会が増えています。
そんなとき、改行はもちろん、文字のサイズを大きくしたり、太字で強調したりといったレイアウト操作を自在にできます。かつては、レイアウトの技術は、文章術に含めない考え方が一般的でした。レイアウトなどは、印刷業者など、専門家の仕事でしたが、現在では一般的な書き手にもレイアウトで見やすくすることが求められています。

(1)改行や空白行で文章の風通しをよくする
レイアウト技術というと、むずかしいことのように思われるかもしれません。しかし、段落ごとに改行するという簡単な操作も「見やすくする」ためのレイアウト技術です。

改行せず、段落もなく、文字がだらだらと続く文章を考えてください。読み手は、文字べったりのそんな文章を見た瞬間、うんざりして読む気をなくします。

さらに、横書きの実務文では、段落の区切りを見やすくするため、改行だけでなく、空白行の挿入をお勧めします。文章をより明確に分解して「見やすくする」ことで、読む気を持続させてもらうためです。
長い文章の記事を書かなければならないとき、さっそく、試してみてください。だらだらと書いてしまった文章をよくチェックし、小さな意味のかたまりの3、4行ごとに改行し、さらに空白行を入れるのです。これだけで、読み手があなたの文章を見た瞬間、空白行という隙間が目に入り、「分かりやすそうだ」と予感するのです。

空白行は「階段の踊り場」のような小休憩を与えてくれます。連続した100段の階段を登るのと、10段ごとに、3メートルほど水平に歩ける踊り場がある階段を登るのと、どちらが楽ですか。「分ければ、分かる」のです。

(2)情報構造(親子関係、並列関係)を明示する

(図)1

図①は、ある講習会テキストの目次です。一見しただけで、非常に見づらい、分かりにくいという印象を持つでしょう。この目次情報を解釈するのに苦労する、つまり「分かりにくい」のはなぜなのでしょうか。
その理由は、各行に書かれている情報の相互関係が明示されていないからです。人は理解するための作業として、意味のまとまったかたまりを複数個、抽出し終わると、今度はかたまりどうしの関係を知ろうとします。
かたまりどうしの関係とは、同等・対等の「並列関係」なのか、一方が他方を包含する「親子関係」なのかです。この関係を迷わせるような表現は、私の言う「情報構造の不提示」なのです。


「分かる」という仕組み

情報構造を明示する有力な手段がレイアウトです。たとえばだれもが知っている「箇条書き」は、お互いに並列関係にある項目を一列に並べるというレイアウトで、それを明示しています。
図①の同じ内容の情報構造を明示したものが図②です。

(図)2

ずっと分かりやすいはずです。
「情報構造の不提示」が起こる理由は、情報の送り手自身が情報構造をよく理解しているため、情報受信者にあえて明確に強調しなくても伝わるだろう、という甘い錯覚があるからです。
あなたが何かの資料を作成するとき、かたまりどうしの「並列関係」と「親子関係」だけは明示しましょう。それだけで、かなり分かりやすい資料をつくることができるはずです。

(3)「かたまり」境界を明示する
レイアウトの工夫は、箇条書きで親子関係や並列関係といった対応関係を明示するだけではありません。かたまり、グループ分けの境界を明示することもレイアウトの重要な役割です。
たとえば例文を罫線で囲んだり、文字の背景を塗ることでも、本文との「区別」を強調し、かたまりの境界を明示することができます。また、そこまでしなくとも、段落の開始位置を変えるなどの簡単なレイアウトによってかたまりの境界を明示することができます。

(4)小見出しの効果
タイトルを工夫するのは当然ですが、斜め読み耐性を高める有効な方法として、小見出しがあります。ある文章のかたまりの趣旨を短い表現の小見出しとして冒頭に掲げておくことには、英文ライテングのトピック・センテンスとまったく同じ効果があります。
小見出しは、文章に「斜め読み耐性」を与えているともいえます。読み手が小見出し情報を頼りに、それぞれのかたまりの文章に対して「関心があるので精読する部分」「重要ではないので読み飛ばせる部分」などとすばやく判断できるからです。
こうした意味で、小見出しをうまく振る技術も、文章を分かりやすくする一種のレイアウト術の有効な手段なのです。


◎次回は 「分かりやすい文章」の技術 について。