ブックタイトル季刊理想 Vol.129

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概要

季刊理想 Vol.129

8 ◆ 季刊理想 2018 秋号 ● 特別寄稿 ● 溝上 慎一 (みぞがみしんいち)先生●プロフィール1970 年 1月生まれ。1996 年京都大学高等教育教授システム開発センター助手、2000 年講師、2003 年京都大学高等教育研究開発推進センター准教授、2014 年同教授を経て、2018年9月より現職。京都大学博士(教育学)。専門は、心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と教育実践研究(学習と成長パラダイム、アクティブラーニング、学校から仕事・社会へのトランジションなど)。公益財団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、学校法人桐蔭学園教育顧問、中央教育審議会臨時委員などさまざまな要職を務める。著書に『アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性』(2018 東信堂、単著)、『高大接続の本質-「学校と社会をつなぐ調査」から見えてきた課題-』(2018 学事出版、編著)など多数。「外化」として捉え直す  アクティブラーニングであろうと言語活動であろうと、主体的・対話的で深い学びであろうと、用語は何でもいい。しかし、絶対外せないポイントは「外化」である。外化は、このすべての用語の基調となるものであり、新しい教育の転換のポイントとなるものである。  外化は、理解すること、考えること、感じること等を、書く・話す・発表する等の活動を通して、自分の言葉で外に出すことである。「活動あって学びなし」や「はいまわるアクティブラーニング」などと揶揄されたような、活動だけを導入すればいいといったものではない。活動を通して自分の言葉で頭の中にあることを外化する学びのプロセスに、さまざまに育てたい、育てなければならないポイントが埋め込まれている。小学校の授業でも資質・能力の育成には必ずしも対応していない  アクティブラーニング論は、変わる社会を考慮して学校教育の社会的機能の見直し、つまり学校から仕事・社会へのトランジション(移行)をにらんで主唱されている。これまでのように、個の力を育てれば、将来、力強く仕事・社会に移行できる状況ではなくなっている。いくら個の力が育っていても、いくらテストの成績が良くても、有名大学を卒業しても、協働の力の弱い者が力強く生きていける仕事・社会ではなくなっている。この現実を学校教師の多くは見落としている。  その意味では、チョーク&トーク型の授業とは無縁の小学校の授業においてさえ、その児童を巻き込む授業がすべての児童の資質・能力(思考力・判断力・表現力等)を育てるものになっているかはきわめて疑わしい。できる児童の理解で授業やグループワークが進んでいる現実を、容易に見て取れるからである。  これまではそれで良かった。しかし、今変わる社会に照らして、学校教育の目標や意義を見直しており、その観点からの学習指導要領改訂である。単により良い授業や学習を目指しての改訂ではないのである。  児童生徒の個と協働の力をバランス良く育てることが、今学校教育に求められている。活動が〝話す?〝発表する?というように他者、集団、社会へと拡張されているのは、まさにトランジションをにらんで学校教育を転換させようとしているからである。主体的・対話的で深い学びでいえば、「対話的な学び」は外せない要素であり、これを外して「深い学び」に到達しても、新しい社会的状況に適応する学びとはならない。こうして、新学習指導要領の「社会に開かれた教育課程」の意味が見えてくる。仕事・社会に出てから力強く生きていくための学校教育であることが、何度も問い直されねばならない。*アクティブラーニングや主体的・対話的で深い学び、トランジショ  ンなどに関する理論や概念の最新の説明や事例紹介は、ウェブサ  イト「溝上慎一の教育論(http://smizok.net/education/)」  にあります。