ブックタイトル季刊理想 Vol.128

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概要

季刊理想 Vol.128

季刊理想 2018夏号 ◆ 1516 ●かみや のぶゆき1983年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。学校と法律 <第40回>弁護士 神谷 信行●かみや のぶゆき1983年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。黒澤映画と著作権映画界の巨匠、黒澤明監督は内外の文学作品を大胆に翻案し、多くの名作を生み出しました。没後20年にあたり、その作品と著作権について考えます。野の用心棒』が黒澤映画『用心棒』に依拠しているのではないかと問題になったこともありました。『砂の器』の捜査会議シーンは『天国と地獄』の捜査会議の場面を想起させます。アニメにおいても、『もののけ姫』の活劇場面は『七人の侍』の戦闘シーンを彷彿とさせますし、『千と千尋の神隠し』で釜爺が薬草棚の抽斗から薬草を取り出す場面は、『赤ひげ』の背景に映っている『薬棚』へのオマージュともとれます。このように、黒澤映画が次の作品を生み出す母体になっていることがわかります。黒澤作品における著作権の消滅と存続 黒澤監督個人の著作権は死後50年間存続しますが(あと30年存続)、映画会社が制作した作品の著作権については、次のような扱いとなっています。 1953年末までに公表された映画、『姿三四郎』『一番美しく』『続姿三四郎』『虎の尾を踏む男たち』『わが青春に悔いなし』『素晴らしき日曜日』『酔いどれ天使』『静かなる決闘』『野良犬』『醜聞』『羅生門』『白痴』『生きる』の著作権は消滅しています。このため、これらの作品については無許諾での廉価版DVDの複製販売が可能です。 これに対し、1954年以後に公表された『七人の侍』以下『まあだだよ』までの作品については、「映画の著作物の保護期間のみ70年に延長」の改正によって現在も著作権が存続しており、『七人の侍』は2024年末まで、無許諾でDVDを複製販売することはできません。 黒澤忌である9月6日までに黒澤作品の全DVD30作を視聴しつつ、各作品の著作権の帰趨について思いを馳せ、黒澤監督を偲びたいと想います。 (次号に続く)シェイクスピアからロシア文学、山本周五郎… 今年は黒澤明監督没後20年の年にあたり、各地で黒澤監督を偲ぶ催しが行われています。30作の作品と数編の脚本を残した黒澤監督には著作権についても多くのエピソードがあります。 黒澤監督は映画にしたい原作があると、会社に「この本を買って下さい」と言ったそうです。これは書物としての本の購入依頼をしているのではなく、原作を映画に翻案する許諾を原作者から取得することを頼んでいるのです。 黒澤監督が名作を大胆な脚色によって映画に翻案した作品に次のものがあります。芥川龍之介の短編『藪の中』が『羅生門』、シェイクスピア『マクベス』が『蜘蛛巣城』、『リア王』が『乱』。ドストエフスキー『白痴』が『白痴』、ゴーリキー『どん底』が『どん底』、エド・マクベイン『キングの身代金』が『天国と地獄』。山本周五郎『日々平安』が『椿三十郎』、『赤ひげ診療譚』が『赤ひげ』、『季節のない街』が『どですかでん』、『雨あがる』が脚本『雨あがる』、『つゆのひぬま』と『なんの花か薫る』が脚本『海は見ていた』(熊井啓補作)。著作物がさらに他の著作物を生む循環 この翻案原作を見ると、黒澤監督はシェイクスピアやロシア文学、山本周五郎の作品に共感し、これら過去の著作物が黒澤監督をして名作を作らせたのだということができます。ここに「著作物が著作物を生む」という事実が浮かび上がってきます。 黒澤監督の作品も他の監督に大きな影響を与えており、ジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』第1作、ロボットの3POとR2D2が砂漠をとぼとぼ歩いて行くシーンは、『隠し砦の三悪人』の千秋実と藤原鎌足の道中シーンを下敷きにしていることは有名です。『七人の侍』が『荒野の七人』に翻案されたほか、『荒