ブックタイトル季刊理想 Vol.128

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概要

季刊理想 Vol.128

14 ◆ 季刊理想 2018 夏号 少しずつちぎって与えていました。  孵化後2週間がたち、ヒナに黒い羽毛が見られる頃になると、雌親も餌を捕りに外へ出かけます。巣に運び込まれた餌の約8割は、ネズミ、モグラ、リスなどの哺乳類で、残りは鳥類、カエルなどの両生類でした。意外なことに、巣に餌が運び込まれたうちの25%は、朝の6時から夕方6時までの日中でした。夜だけでなく、日中も餌を捕って巣に運んできたのです。夜行性であっても、日中も狩りが可能なことがわかりました。不足する繁殖のための樹洞  調査を進める中で、繁殖に適した樹洞の不足が深刻なことも解ってきました。他の地域では、スギの木の根元の地上に営巣した例やオオタカ、ノスリ、ハチクマといった猛禽の古巣で繁殖する例が見つかっています。  崖の穴に営巣した巣では、雛が2回、巣から落ちる事件が起きました。その都度巣に戻してやり、なんとか雛は無事巣立ちました。また、ハチクマの巣にカメラを設置したところ、その巣にフクロウが営巣し、雛が2羽とも巣から落ちてしまったことがありました。本来樹洞で育てられるフクロウの雛には、巣から落ちないようにする習性が備わっていなかったのです。里山環境で人と共存してきた鳥  フクロウは、人里に棲み、長い間人と共存してきた鳥です。神社の境内にある大木の洞にも営巣し、農耕地などの開けた環境でノネズミなどを捕らえる益鳥でした。暗闇の中でも見える人にない能力を持ちます。木に直立してとまり、人と同じような大きな頭と丸い平たい顔に立体視可能な丸い目を持ち、いかにも賢そうに見えます。これらの特徴は、いずれも闇の中で聴覚と視覚を頼りに獲物を捕らえるために進化したものです。  身近に見られ賢そうな顔をしたフクロウの仲間の鳥ほど、世界中の人々に愛されてきた鳥はいません。古代ギリシャの知恵の神アテネの象徴として、神話や伝説、物語といった多くの文学作品や絵画の題材となり、逆に災いをもたらす不吉な鳥ともなってきました。  フクロウの後は、同じように神社の大木の洞で繁殖するアオバズクについても調査しました。この鳥は、私の実家の近くにある神社で毎年繁殖し、子供の頃にはこの鳥の「ホウ、ホウ」という鳴き声を初夏の夜に聞いて育ちました。神社の高い木の上から、下で遊ぶ子供たちを見ていた鳥です。薄れる身近な自然への関心  フクロウとアオバズクの研究から見えてきたことは、かつての人との共存関係が、最近ではすっかり壊れてしまっていることでした。巣の洞のある木は知らずに切り倒され、神社の洞の巣穴はコンクリートで埋められました。さらに、私の子供の頃の遊び場であった神社の鬱蒼としたケヤキの森は、老木となり危険ということで、伐採されました。その結果、アオバズクは姿を消し、子供たちの遊ぶ姿は見られなくなり、そこで行なわれていた春祭り、夏祭り、秋祭りも、今では途絶えがちとなりました。  これらの変化の根底には、かつての自然と共存した生き方から最近の人間中心の生き方への生活様式の変化があるように思います。我々は身近な自然を失っただけでなく、最近は身近な自然への関心も薄れてきてしまったように思います。物質的な豊かさと引き換えに、我々は多くの大切なものを失ってしまったように思えてなりません。  写真① 巣箱で育つフクロウの雛。    写真② 白い毛に包まれた孵化したばかりの雛と      巣に蓄蓄えられていたネズミとヒヨドリ。 写真③ 縫いぐるみのようにかわいい雛たち。    まだ、なかなかネズミを丸のみできない。  写真④ 巣にネズミをもってきた雌親。