ブックタイトル季刊理想 Vol.128

ページ
14/24

このページは 季刊理想 Vol.128 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

季刊理想 Vol.128

●中村 浩志先生プロフィール1947年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002年、カッコウの研究で第11回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。連 載 人間と鳥の世界?中村 浩志(信州大学名誉教授      中村浩志国際鳥類研究所代表理事)季刊理想 2018夏号 ◆ 1314 フクロウ研究のきっかけは「スノーレッツ」 私が信州大学教育学部に入学した当時の生態研究室では、学生一人ずつ一種類の鳥を決め、それぞれの鳥の繁殖生態を卒業論文の研究テーマにしていました。私が選んだのは、カワラヒワです。この鳥の研究を京都大学理学部の大学院でさらに続け、学位を取得した後、信州大学に助手として戻りました。恩師羽田健三先生から研究室を引き継いだ頃には、身近な鳥はほとんど調査が終わっていました。私の代になった時には、数が少ない希少な鳥や警戒心の強い猛禽類など、調査が難しい鳥ばかりが残されていました。 そんな状況の中、私は研究室の学生と一緒に夜行性のフクロウ類の研究に挑戦することにしました。きっかけは、1998年開催の長野冬季オリンピックのマスコットが「スノーレッツ」というフクロウに決まったことでした。フクロウの調査開始 大学のある長野市街地から車でわずか15分の小田切地区で、一番身近なフクロウから調査を始めました。山麓に位置し、畑や水田といった農耕地、スギやカラマツの植林地と雑木林とが混在し、その中に集落が散在する典型的な里山環境が今も残る地域です。 夜の鳴き声からなわばり分布をまず調査した後、巣箱を設置しました。自然の樹じゅどう洞の巣は、高いことなどで調査がしにくいからです。翌年には、いくつかのつがいが巣箱を使って繁殖しました(写真1)。 巣箱で繁殖するつがいを調査し驚いたことは、雛が孵化するころになると、巣の中にたくさんの餌を蓄えていたことでした(写真2)。多い例では、13匹のネズミを蓄えていました。蓄えていた餌の多くはノネズミでしたが、ヒヨドリなど鳥も蓄えていました。雛のために、あらかじめ餌を蓄えて準備することは、人間が生まれてくる赤ん坊のためにさまざまな準備をするの身近な自然の象徴 フクロウ    人里に棲んで人々に親しまれ、古くから神話や伝説、絵画などの題材となるなど人と共存してきたフクロウですが、    最近では人と自然の関係が変化することによって、その共存関係がすっかりなくなっているようです。 と似ていますが、鳥では珍しいことです。解明されたフクロウの繁殖生態 フクロウは、本来は樹洞で繁殖する鳥です。そのフクロウが、道路建設のために削った崖の穴で繁殖しているのを見つけました。外から巣の中の様子が丸見えです(写真3・4)。近くに小型カメラを設置し、そこから50mほど離れたテントの中に置いたビデオデッキで、巣の中の様子を録画しました。夜には、弱いライトの光で馴らし、卵の時期から雛が巣立つまでの約1ヶ月間、毎日24時間連続して巣の中の様子を撮影しました。 撮影されたビデオを解析し分かったことは、子育ての仕事は雌雄ではっきり分かれていることでした。巣に留まり、産卵し、卵を温め雛の世話をするのは雌で、巣にいる雌や雛に餌を運んでくるのは雄の仕事でした。雄が運んで来た餌を雌は自分で食べるだけでなく、雛が孵化するころには巣に蓄え、雛が孵化すると