ブックタイトル季刊理想 Vol.128

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概要

季刊理想 Vol.128

季刊理想 2018夏号 ◆ 910 物語読みクラブ 夏の活動報告●なかす まさたか1938年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。 言葉の歳時記●兵庫教育大学名誉教授中洌 正堯 現行の小学校国語教科書に載っている物語を中心に、ABCの三人がクラブ活動を始めました。 Aは、物語をアニメ映画化するなどの映像的・劇的視点から、Bは、物語の虚構の方法をメタ認知する視点から、Cは、比べ読み・重ね読みによって新たな世界を形成する視点からの発言です。 Ⅰ 「白いぼうし」(あまん きみこ)B 松井さんのタクシーに乗ってきた少女は、  モンシロチョウだよね。A ファンタジーとして捉えると、それでいいと思うんだけど、あくまでも松井さんの幻覚だと読む人もいるみたいだよ。C ファンタジー世界には、宮沢賢治の「注文の多い料理店」みたいに、たとえば、「山猫軒」の出現と消滅で「風がどうと吹く」というように、しるしがある。「白いぼうし」にはそれがないからかな。A 少女は蝶ちょうが化けたものでいいとして、アニメ映画化では、その蝶が帽子の中に捕われていた蝶とは別にしたいんだけど。C「あをあをと空を残して蝶別れ」(大野林火)のように、二匹の蝶が別々に飛んできたことにしたいんだね。B 終わりの〈「よかったね。」「よかったよ。」〉は、その二匹がお互いの体験を話しているというわけか。松井さんは白い帽子を持ち上げて、蝶が飛び出たとき、あわてて帽子を振り回しているよね。それに蝶を〈えもの〉と言っている。その点からも、松井さんの車に戻ってこないほうがいいね。A 都市・人工(タクシー/紳士/帽子/男の子/虫取り網/四角い建物ばかりなど)と農村・自然(夏みかん/田舎のおふくろ/蝶二匹/小さな野原など)との接点に、両者の共生・交流役として、善意の人松井さんがいるという構図。その接点を広げるためにも蝶二匹がいいと考えたわけなんだ。 Ⅱ 「海の命(いのち)」(立松和平)B 父が死んだとき、太一はその死顔を見たのだろうか。わたしは、「見た」ことにし、その表情も「穏やかなもの」と読んでいるけれど。A そうだね。終わりのほうの場面で、〈おとう、ここにおられたのですか。〉というのは、クエと二重写しになっているイメージだよね。C 太一が銛もりを打つのを止めたのは、父や与吉じいさ、それに母の言葉などとの関係もあると思うが、直接的にはこの場で海に帰った父の面影に出会ったことが大きい感じだね。B 「海の恵み」と言った父も、「千匹に一匹でいい」と言った与吉じいさも海に帰って、瀬の主とともに、象徴的に海のいのちとなった。太一はそれを感得したということかな。C 「うつ・うたない」で言えば、「ごんぎつね」(新美南吉)の兵十はなぜごんを撃ってしまったのか。「大造じいさんとがん」(椋鳩十)の大造じいさんはなぜ残雪を撃つのを止めたのか。次に話し合ってみたいね。25