ブックタイトル季刊理想 Vol.125

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概要

季刊理想 Vol.125

兵庫教育大学名誉教授 中洌 正堯22秋の物語 ― 比べ読みのすすめ 現行の小学校国語教科書に載っている物語190編の〈主題性〉をたずねて、分類を試みる。 その活動を通して、比べ読み・重ね読みのおもしろさをつかみ、学びを深めていく。 〈主題性〉をここでは、大きく〈人と自然との交流・葛藤〉と〈人と人との親和・葛藤〉の二つに分ける。Ⅰ 人と自然との交流・葛藤【山の図書館】(肥田 美代子 ③) 今は一人暮らしのおばあさんが、子だぬきに絵本の読み聞かせを頼まれる。その子だぬきは絵本を借りて帰っては、他の子だぬきたちに読み聞かせをするようになる。 たぬきが人まねをする話には、【たぬきの 糸車】(きし なみ ①)がある。これは、春にかけての話である。たぬきに対して、きつねの物語も、【ごんぎつね】(新美 南吉 ④)を典型として、教科書に少なくない。【きつねの おきゃくさま】(あまん きみこ ②) この〈主題性〉は、〈自然界での親和・葛藤〉である。人は出てこない。きつねと、ひよこ・あひる・うさぎの食うか食われるかという緊張関係が、春から秋にかけて思いがけない結末を迎える。そこには言葉の力、意味作用による仕掛けがあるが、次の作品群とその緊張感を比べ読みしてみたい。【おまえ うまそうだな】(みやにし たつや ②)アンキロサウルスとティラノサウルスの緊張関係をほぐした言葉は?【ニャーゴ】(みやにし たつや ②)三びきの子ねずみとねこの緊張関係と解放、前の二作品と似ているところ、違うところ?【あらしの夜に】(木村 裕一 ③)やぎとおおかみの緊張関係とその行く末は? これらについて読書会形式で話し合う。 言葉の意味の二重性という点では、【注文の多い料理店】(宮沢 賢治 ⑤)がある。Ⅱ 人と人との親和・葛藤 ここでは、友情関係や家族関係に注目する。人は、動物が擬人化されたものが多い。「友だちって何?」と考えさせる作品群。【はじめは「や!」】(こうやま よしこ ①)に出てくる言葉は「いちばんの友だち」。【かいがら】(もりやま みやこ ①)は「だいすきな友だち」。【たろうの  ともだち】(むらやま けいこ②)は「みんななかよしの友だち」。【お手紙】(ローベル ②)の訳では「親友」。 さて、【あしたも 友だち】(うちだ りんたろう ②)では、くまのけがをめぐって、揺れ動くきつねとおおかみの友情の機微がリアルに描かれる。こうした作品を読む力は、【紅鯉】(丘 修三 ⑥)や【風切るつばさ】(木村 裕一 ⑥)などの読みを支える。【一つの花】(今西 祐行 ④) 家族関係に、歴史的事実をふまえた〈戦争と平和〉という〈主題性〉が加わる。 一つの花であったコスモスがいっぱいになり、少女は成長する。コスモスは、母子家庭に託された平和への願いを象徴する。 日本の秋のコスモスに出合うとき、この物語の思いがよみがえるようでありたい。●なかす まさたか1938 年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。季刊理想 2017 秋号 ◆ 13