ブックタイトル季刊理想 Vol.125

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概要

季刊理想 Vol.125

子どもと生き方⑭吉本 恒幸 聖徳大学大学院教授新しい学習指導要領を読み解く特別の教科 道徳編 その(1) 道徳科の特質とは何か●よしもと つねゆき聖徳大学大学院教授。全国小学校道徳教育研究会会長、公立小学校長を歴任。日本道徳教育学会会員。文部科学省道徳教育指導資料作成委員。中央教育審議会委員などを務める。 今回から、特別の教科 道徳編に入ります。小学校では、来年度から教科書を使用したいわゆる「道徳科」が始まるからでしょうか、道徳の授業についての関心は非常に高くなっています。この機に、道徳科の特質を理解することは極めて大切です。道徳性の捉え方の変更 以前の学習指導要領で道徳授業を「道徳の時間」としていたときは、学校の教育活動全体を通して行う道徳教育との違いを道徳性の捉え方からも考えることができました。すなわち、道徳教育は、道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度、道徳的行為、道徳的習慣という様相からなる道徳性を養うことを目標としていました。そして、道徳の時間は、道徳性の内の道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度を養うことを目標とし、それらは内面的資質としての道徳的実践力と定義されていました。教科と区別して道徳の時間の特質を論じるときは道徳的実践力の在り方も考慮できたのです。 今回の改訂により、道徳教育と道徳科が目指す道徳性は、道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲と態度に一体化されました。体育の授業と道徳科の授業でも同じ様相の道徳性を養うことになったわけです。したがって、今後は、道徳性の捉え方の観点を外して道徳科の特質をより一層鮮明にすることが求められます。道徳科の特質 道徳科の特質は、目標の文言から導き出されます。道徳教育の目標に基づき、よりよく生きる基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。 道徳科は、内面的資質としての道徳性を主体的に養う授業です。ゆえに①道徳的価値の理解を図る ②自己を見つめる ③多面的・多角的に考える ④自己の生き方についての考えを深める、これらの機能をすべて学習活動に位置付けることが道徳科の特質として重視されます。それぞれの機能を簡単に説明します。◆道徳的価値の理解を図る 道徳的価値は人間としてよりよく生きるための礎です。道徳的価値を実現することができない人間の弱さや他者の考え方の理解を伴いながら、道徳的価値のよさや大切さを観念的ではなく実感を伴って理解することが重要となります。◆自己を見つめる 理解した道徳的価値を自分の姿に当てはめ、これまでの自分の経験やそのときの考え方、感じ方と照らし合わせながら、自分の有り様を誠実に見つめ直すことです。◆多面的・多角的に考える 自分の考えなどに固執することなく、他者と対話しながら多様な価値観にふれることで自身の価値観の深まりや変容が期待できます。さらに、自分の体験も改めて見直すことができ、生きる上での課題や新たな思いも培われます。◆生き方についての考えを深める 道徳的価値の理解を図り、それを基に自分を見つめるとき、人は自然にこれからの自分の生き方を考えていきます。このことをより意識するためには、自己を見つめる段階で、自分の体験やそれに伴う考え方や感じ方などを確かに想起することが前提となります。注意すべきこと 最近、問題解決的な学習などを取り入れた道徳科の授業が多く見られます。しかし、筆者が参観する授業では、教科における問題解決学習の方法を道徳科に転用した形が目立ちます。学習課題を設定したあと、全員でこのことを追求・議論し、全員で解を導き出し共有するという流れになっています。果たして、このやり方は道徳科にふさわしいのでしょうか。問題解決的な学習の在り方については、別の機会に述べますが、道徳科の特質から逸脱したり、手段が目的と化したりしてはなりません。指導の工夫は、道徳科の特質を生かすためになされることが原則であることを踏まえることが重要です。季刊理想 2017 秋号 ◆ 11