ブックタイトル季刊理想 Vol.124

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概要

季刊理想 Vol.124

⑧ 森山 卓郎 早稲田大学文学学術院教授■いちばん間違いやすい漢字は? 以前、中学校の先生方に、一番間違いやすい漢字について聞いたことがあります。そこで挙がったのは「犯罪ソウサ」という言葉でした。 「捜査」ですが、「捜」という字は、旁の上が「申」のようになっていなければ×なのだそうです。「由」のように書く生徒が多いそうですが、かなり細かく見ないとわかりません。ただ、今の字体では確かに上下に突き出た「申」と書きますが、「捜」の右(旁)の部分は、本来は「叟」という形です(どちらもソウという音読みですね)。もともとは「申」ではありません。 「査」も間違いやすい字。「木」の下の部分が「且」となっているのですが、「旦」と書いてしまう中学生が多いそうです。「旦」は日が出てきたところを表す会意文字で、「朝」を表します。それに対して、「査」の下の部分は、「組」の右側と同じ形で、確かに形は違っています。これも厳密にチェックするなら虫眼鏡が必要かもしれません。■学と常 うるさく言えば、点の向きの違いなどもあります。「学」の上の部分と「常」の上の部分はどうでしょう。一見よく似ていますが、上の点の向きが違います(厳密に言えば「常」の上の真ん中の部分は点ではありません)。なぜでしょう。それは成り立ちの違いです。「学」はもともと「學」という字体だったものが、現代では省略されて点三つになっているのに対し、「常」「党」などの上の部分は、もともと「尚」と同じ形です。筆順も、「学」は左から点を書くのに対して「常」の点は真ん中を先に書くことが多いようです。■寛容になることも このように、書き順や向きも含めて、微妙な字の形の違いということはよくあります。関西地方のある国立大学の入り口には、大学の名前が彫られた立派な石があるのですが、その「大学」の「学」という字の上の真ん中の点の部分がほぼまっすぐになっていて、「常」の上の部分とよく似た形になっています。私などはちょっと違和感を覚えるのですが、かといって、「誤字」というのも言い過ぎかもしれません。 こうした微妙な違いは、一応ちゃんと読めるのであれば、許容してもいいとい●もりやま たくろう早稲田大学文学学術院教授。京都教育大学名誉教授。専門は日本語学。近著に『教師コミュニケーション力』(明治図書)、『日本語・国語の話題ネタ』(ひつじ書房)『日本語の〈書き〉方』(岩波ジュニア新書)など。漢字のテストう考え方もあります。例えば「令」「令」などはどちらの書き方もなされます。「しんにょう」の点も一つの場合と二つの場合があります。「捜」の右も元々は「叟」でした。そもそも漢字の形はいろいろな変化を遂げてきたものです。普段の生活では、字に対して「寛容」であることも必要です。 漢字テストの採点ではどうでしょうか。採点の時に虫眼鏡を用意して、点の向きなども含め、疑わしい場合は複数の採点者で確認するなどという厳格な採点方針もあるでしょう。一方で、大体読めれば正解とするという先生もありそうです。あなたが採点者ならどうしますか?1510 ◆ 季刊理想 2017 夏号