ブックタイトル季刊理想 Vol.124

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概要

季刊理想 Vol.124

兵庫教育大学名誉教授 中洌 正堯21夏の物語 ― 比べ読みのすすめ 現行の小学校国語教科書に載っている物語190編の〈主題性〉をたずねて、分類を試みる。 その活動を通して、比べ読み・重ね読みのおもしろさをつかみ、学びを深めていく。 〈主題性〉をここでは、大きく〈人と自然との交流・葛藤〉と〈人と人との親和・葛藤〉の二つに分ける。Ⅰ 人と自然との交流・葛藤【白いぼうし】(あまん きみこ ④) ※【】内は教材名、○数字は配当学年。以下同じ) 夏がいきなり始まったような暑い日のできごとで、タクシー運転手の松井さんが、結果的にもんしろちょうを救う話である。 白いぼうしの中に捕われていたちょうと、タクシーに乗ってきた女の子とを同一視する読み方の他に、別のちょうと見る読み方も成り立つ。 松井さんのタクシーには、色々な人物が乗ってくる。【山ねこ、おことわり】(あまん きみこ④)とあるが、松井さんは断るのだろうか。【夕日の しずく】(あまん きみこ ①) この〈主題性〉は、〈自然界での親和・葛藤〉である。登場人物は、きりんとありで、人は出てこない。 ある夏の日のことである。ありは、きりんの首を登らせてもらって、海を見る。きりんにとっては望郷の海である。一方、きりんは、ありを地上に下ろしたとき、夕日のしずくのような赤い小さな花を見る。お互いに、大と小の対比的な発見をする。【海の命(いのち)】(立松和平 ⑥) 〈人と自然との交流・葛藤〉の自然が擬人化され、外言・内言によって心情が語られる場合と、物言わぬ場合とがある。 【海の命】の太一は、父を倒した大物のクエを討つべく、漁師としての鍛錬をつづける。父、与吉じいさ、母の言葉を受け、究極は、物言わぬクエからの語りかけを感じ取って、和解の道を選ぶ。 太一とクエの関係を、【大造じいさんとがん】(椋鳩十 ⑤)の関係に重ねてみてもよい。クエも残雪も、物言わぬのである。Ⅱ 人と人との親和・葛藤【夏の宿題】(後藤みわこ ③) おれとお母ちゃん・おっちゃんの自転車をめぐる騒動である。 おれの自転車が盗難に遭い、おっちゃんの所で見つかった。けれども、あさがおが巻きついているので、この夏、待ってほしいという。さて、おれはどうするか。【競争】(佐藤雅彦 ⑤) 夏休み、洋次たち五人と東京から来ているとしちゃんが、渡船に乗って御浜へ海水浴に出かける。帰る時、としちゃんが渡船に乗り遅れる。そのことに気づいた船上の五人の悔いの中を、としちゃんが次の船着き場に向かって、船から見え隠れする海岸道路を全力で走り抜けていく。 【カニモトくん】(とき ありえ ⑤) 海辺にすむ生き物が、学校の子どもや先生に擬人化されている。転校生のカニモトくんとぼく(ハゼオ)の束の間の友情物語である。 「転校」という遭遇・離別は、〈人と人との親和・葛藤〉の大きな試金石であり、その物語は少なくない。季刊理想 2017 夏号 ◆ 9●なかす まさたか1938 年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。