ブックタイトル季刊理想 Vol.119

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概要

季刊理想 Vol.119

●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。学校と法律<第31 回>弁護士 神谷 信行●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。喜怒哀楽をこめた「替え歌」という文化アメリカには、「フェア・ユース」の思想があり、作者の名誉・声望を害しない公正な利用は、国民の自由に属するとされています。季刊理想 2016 春号 ◆ 15マイ・ダーリン・クレメンタイン」と歌いつつ登場するのが常でした。このように心しみる歌は国境を越え、「替え歌」として歌いつがれるのです。「フェア・ユース」の思想 アメリカ民衆の歌(Folk Song)は「替え歌」をルーツにしています。カントリーの定盤『永遠の絆』(『WillThe Circle Be Unbroken』)は、三拍子の讃美歌『アメイジング・グレイス』を四拍子にした曲です。この二つの曲を日本語に訳したなぎら健壱さんは『アメイジング・グレイス』に『愛の絆』という邦題をつけ、『永遠の絆』とセットにして歌っています。 民衆に「アメリカ第二の国歌」といわれ愛唱されたウディ・ガスリー『わが祖国』(『This Land IsYour Land』)は、カーター・ファミリーの『世界が火と燃える時』(『When The World's On Fire』)の歌詞を書き換えたものですし、ガスリーを敬愛していたボブ・ディランがデビューアルバムに収めた『ウディに捧げる歌』(『Song To Woody』)はガスリーの『1913 年の大虐殺』の「替え歌」です。そして、カーター大統領をして「第二の国歌」と言わしめたポール・サイモンの『アメリカの歌』(『American Tune』)は、バッハ『マタイ受難曲』中の「嘆きのコラール」の旋律を用いた名曲です。 これらの例から分かることは、歌い継がれる民衆の歌の原点は「替え歌」にあるということです。これを支えるのがアメリカの「フェア・ユース」の思想で、アメリカでは、作者の名誉・声望を害しない公正な利用は国民の自由に属するとされているのです。法律より心情を重要視して 先日、『子どもの替え歌傑作集』(鳥越信・平凡社)の中に昔歌った替え歌を見つけ、「替え歌の文化」を再認識しました。それは『うれしいひな祭り』の替え歌で、「あかりをつけましょ百ワット/お花をあげましょ若乃花/五人囃子の愚連隊/今日は楽しい殴り込み」という歌詞でした。また戦時中、『夕焼け小焼』の節で「夕焼け小焼で日が暮れない/山のお寺の鐘鳴らない…」と、空襲被害や金属供出を歌い込んだ秀逸な歌があったことも知りました。これらの替え歌には子どもたちの喜怒哀楽がこめられています。 替え歌は歌詞を変更するため、著作者人格権の一つ「同一性保持権」に基づき、替え歌公表に際し、原著作者の同意を得ることが必要です。しかし替え歌を歌う子どもにとって、法律よりも自分たちの心情の方が重要だったのです。国境を超える「替え歌」 愛唱歌にも多くの「替え歌」があります。昔習った文部省唱歌『星の世界』(「かがやく夜空の星の光よ/まばたくあまたの遠い世界よ…」)は、讃美歌312 番『いつくしみ深き』(『What A Friend We Have InJesus』)に日本語の歌詞をつけたものです。『おたまじゃくしは蛙の子』の元歌は南北戦争時の歌『リパブリック讃歌』、『雪山讃歌』はアメリカ西部の民衆歌『愛しのクレメンタイン』の「替え歌」です。この歌はジョン・フォード監督『荒野の決闘』の主題歌でもありました。子どもの時見たアニメ『早撃ちマック』の主人公は、保安官ワイアットアープの如き格好で「オー・マイ・ダーリン、オー・マイ・ダーリン、オー・