ブックタイトル季刊理想 Vol.118

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概要

季刊理想 Vol.118

東日本大震災・被災校のいま⑧子どもたちの心のケアを最優先に 未曽有の被害をもたらした東日本大震災。被災地の中には、災害対策や復旧事業の陣頭指揮にあたるべき行政機能がマヒした自治体も少なくありませんでした。とりわけ、深刻だったのが、人的被害が著しかった陸前高田市教育委員会。事務局を置いていた市民会館が津波で破壊され、教育長をはじめ、多くの事務局職員の命が失われた結果、被災直後、市の教育行政は機能不全に陥りました。 その中で、岩手県教育委員会から派遣されたのが、金賢治先生(現大船渡市立大船渡中学校長)でした。まだ混沌とした状態が続く翌4月1日に、市教育委員会次長に就任。学校再開の目安が4月20 被災したからこそ、「普通」のありがたさを実感試行錯誤しながら、新たな試みに「トライ」する受け止め、学校再開の前に、専門のカウンセラーを講師に招いて何度も研修会を開きました」 金先生が同教育委員会次長を務めた期間は2年間。再開時には体育館や校庭が使用不能な学校がほとんどでしたが、近隣の事業所や関係者への働き掛けを進め、代替のグランドを確保するなど、教育環境の充実に力を尽くしました。「震災直前は県教委に在籍はしていたものの、元来は一介の音楽教師。役所のしきたりも分からない中で、毎日が苦難の連続でしたが、今振り返ると事務局スタッフ、校長をはじめとした教師の皆さん、そして子どもたちには感謝の気持ちしかありません」「普通」を大切にすることで、日常生活が充実 金先生は、2013年度に大船渡市立大船渡中学校長に就任するにあたって、「普通の教育環境に戻すこと」を第一の目標に掲げました。「2年間にわたった陸前高田市の教育次長時代は、毎日が震災モード。災害対策、復旧、復興を課題に据えましたが、その一方で、子どもたちには大きな負担がかかっていました。心の苦しさを表に出さないどころか、逆に『大人をどう元気づけようか』と気を配っていた子どもも大勢いたのです。だからこそ、大船渡市立大船渡中学校長 金 賢治先生 震災直後、被災自治体の中でもとりわけ大きな人的被害を受けた陸前高田市教育委員会の次長に就任した金賢治先生。現在は大船渡市立大船渡中学校長を務めています。今号では被災地の教育現場を見続けてきた金先生に、これまでの取り組み内容や教育方針、保護者とのコミュニケーション法など、幅広くお話をお聞きしました。日と決まる中、仮事務所として設置された、狭苦しいプレハブ内で、校舎の修繕・修復、仮設トイレの設置、スクールバスの運行、給食の再開準備、津波で紛失した学齢簿の整理、確認作業など、多くの事務作業、ハード整備への対応にあけくれましたが、金先生がそうした取り組みと並行して力を入れたのが、子どもたちの受け入れ準備でした。携わったすべての人に感謝 金先生は当時を次のように振り返ります。「家族を亡くした子どもも少なくない。教師としてどう子どもたちの悲しみを包んであげられるか。ハードの整備も重要ですが、これを最優先の課題と季刊理想 2015 冬号 ◆ 13